四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第103回
技術と設計のプロが作ったオーディオブランド「Olasonic」
PCスピーカーに“革命”起こした、元ソニーのピュアオーディオ屋
2012年10月13日 12時00分更新
パソコンがいい音で鳴り出すと世界が変わる(かも)
さて、気になるのはTW-S5(5cmスピーカー)と、TW-S7(6cmスピーカー)の音の違い。それで自宅のMacbook Proに、2台接続して聴き比べてみた。
もう音の傾向は全然別と言っていい。もちろんエンクロージャ容量の小さなTW-S5は、TW-S7に比べて低音は出ない。この点では、ベースをちゃんと聴きたい、机の天板が振動でブルブルするのがたまらん、という人にはTW-S7の方がいいだろうし、TW-S5ではたぶん物足りない。
ただ、TW-S5は、Olasonicの特徴であるステレオ音像のピントがよりシャープに出る。もうひとつは中音域の解像感。もともと小型なので相対的に情報量の多さを感じる部分だが、ボーカルやバイオリンのような帯域の音は、より前に出てくる感じで鮮明に聴き取れる。逆にTW-S7は奥に引っ込んでしまう感じがするくらいだ。
そんな音の違いを前提にして、あとは机の上の小さなスペースでも置けるTW-S5、設置自由度の高いTW-S7というように、設置性の違いで選ぶことになるだろう。TW-S5は小さくて、携帯に配慮されたところもあり、鞄の中に入れて持ち歩くには便利だろう。安いんだから両方買うというのもアリでしょう。
みんないい音で聴けたら、もっと音楽が聴きたくなるに違いないと思うのだ
良質なニアフィールドリスニングの機材が1万円もしないで手に入るという状況は、たしかに革命的だろうと思う。実際、しばらく聴いていなかった音源を買い込んだりして、すっかり新鮮なオーディオ体験を満喫させてもらっている。
いま、多くの人が家ではパソコンで音楽を聴いている。だから、この部分の質を上げていくことは、特にオーディオに興味のない人の音楽体験を支える上で、大きな意味があるのではないか。みんないい音で聴けたら、もっと音楽が聴きたくなるに違いないと思うのだ、今の私のように。
「圧縮音楽で満足しているなんて今の若い世代は可哀想」「アナログレコードの音も知らないで一生過ごすなんて本当の音楽を知らないも同然」なんていう言葉を目にするたびに、それは頭のネジがゆるんだバブルオヤジの自慢と一緒じゃないか、と思う。
パソコンのスピーカーではCDやMP3でもオーバークオリティーだったのだ。だから若者がひどい音を聴いていて可哀想、というのなら、誰にでも買える安い値段で、バカみたいにいい音がするものを作ればいい。つまりこの点でOlasonicは最高ということです。
そうでなくとも、今までのオーディオ機器は「いい音は贅沢品だから高い」という常識を前提にしているところがあって、無論、人手と材料をかけなければ成立しない音というものはあっても、たった数メートルで私の月収に到達するケーブルのようなものを見るにつけ、ちょっと皆さん、ここらで考え方を変えませんか、と言いたくもなる。
かつてオーディオに結構な金をつぎ込んできた私としては、いまそのように反省しております。
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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