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世界一でも時に大赤字 サムスンがメモリ事業を続ける理由

2012年09月25日 22時31分更新

文● 小西利明/ASCII.jp編集部

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京畿道華城市にある、サムスン・メモリー事業の中核工場。全体で6つのライン(工場建屋)が存在する

 9月25日にサムスン電子は、世界各国から招聘した報道陣に向けて、同社の半導体事業の中核である京畿道華城市(ファソン市)の工場「Hwaseong Plant」を公開。同社の半導体事業についての説明を行なった。

 あらかじめお断わりしておかなくてはいけないが、以後の記事中には記者が撮影した写真は1点も掲載しておらず、すべてサムスン提供のものである。最先端の半導体や液晶パネル工場の内部を、自由に撮影できるような見学を許可する企業はまずないので、こうした形での掲載に限られてしまうことをご了承いただきたい。冒頭掲載の工場外観写真も、工場敷地手前を移動中に撮ったもので、敷地内での撮影は一切禁止であった(電子機器類の持ち込みも禁止。それにも関わらずカメラや携帯電話機を持ち込んだ場合、袋に入れるかレンズにシールを貼られることになる)。

 日本でサムスンと言えば、大は大型テレビから、小はスマートフォンやSSDなど、完成品の電子機器類の方が知られているだろう。しかしサムスンは世界屈指の半導体企業でもある(業界の巨人インテルは別格)。特にメモリー事業では、1993年以降世界シェア1位の座に君臨し続けている。その旗艦工場が、ソウル市の南に位置する華城市の工場群というわけだ。

 170万m2を超える敷地には、現在6つのライン(工場建屋)が存在し、最先端のプロセスでは21nmプロセスでのNANDフラッシュメモリーなどを製造している。今回報道陣に公開されたのは、見学コースのある「ライン12」の一部(NANDフラッシュ製造の前工程のさらに一部)。それ以外はもちろん非公開である。

サムスン「Hwaseong Plant」のイメージ写真。実際の製造ラインに比較的近いイメージだが、実際はさらに徹底した無人化が進んでいる

 記者は何度か、こうした半導体製造工場や液晶パネル製造工場(両者は一部に似たような製造工程をとる)を見学しているので、Hwaseong Plantも基本的には同種のものと感じた。ただし中身は最新鋭だ。クリーンルームの中は完全機械化されており、広い製造ラインの中には1~2人のメンテナンス要員しか見当たらない。製造中の半導体ウェハーは、天井のレールにぶら下がったモノレールのように走行するロボットの中で、さらに清浄度を高めた箱に収められて、製造装置の間を行き来する。ちなみにこのロボットとレールシステムは、名古屋の企業が手がけたものだという。半導体露光装置など製造装置も、日本製の機材が多数導入されている。半導体製造装置で日本企業のシェアが高いのは、世界的な傾向である。

同じくHwaseong Plantのイメージ写真

 サムスンで半導体製造に使うウェハーのサイズは、現在では一般的な直径300mm(約12インチ)サイズとなっている。しかしさらなる製造効率の向上を目指して、450mm(約18インチ)への拡大に挑戦しているという。半導体は通常、1枚のウェハーから切り出せる数が多いほど、生産コストが下がる。ウェハーの大型化は効率を向上させて、さらに生産コストを下げるのに寄与する。しかし、当然大きなウェハーは作るのも扱うのも、小さいものより難易度が上がる。サムスンとしてもウェハーの450mm化はすぐにできるようなものではなく、4~5年先に実現というプロジェクトだそうだ。

 サムスンの半導体事業、特にDRAM事業は世界一のシェアを誇るが、だからと言って半導体事業が濡れ手に粟の楽なビジネスというわけではない。同社の決算発表を追っていくとわかるが、DRAM事業は市況に左右されやすく、膨大な利益を生んだ翌年には、一転してすさまじい額の赤字を計上することもある。「投資というより投機」と社内の人が自嘲気味に言うほど、波の激しい事業だ。

Hwaseong Plantのイメージ写真

 ではなぜそのようなリスクの高いビジネスを、サムスンは続けていけるのか。それは「何本も足があるから」だという。足とは会社を支える大きな事業のことだ。仮に半導体事業が大きな赤字を出しても、携帯電話やテレビの事業が黒字を出して支える。一方でテレビが不振に陥れば、半導体が支える。複数の事業が互いに支え合えるので、例えある年に半導体事業が大赤字を出しても、ビジネスを続けていけるというわけだ。

 とはいえ、サムスンも昨年決算では携帯電話事業以外のほとんどの事業が厳しい決算で、一本の足で支えているのに近い状況ではある。また、かつてメモリー事業を多くの会社が手がけていた日本企業が、サムスンの真似をして今でも生き残り続けられたかと言うと、そう簡単にはいかなかっただろう。

 サムスンの半導体事業の売上高はすでに200億ドルを大きく超えているが、2019年にはメモリー事業だけで300億ドルの売上高を目指すという。

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