前回は再生ソフトをインストールし、ハイレゾ音源を手に入れる方法を紹介した。すでに試している読者もいると思うが、PCの内蔵スピーカーでハイレゾ音源を聴いてもあまり驚くような音だとは感じられなかったのではないだろうか。
CDからリッピングした16ビット/44.1kHzの同じ楽曲と聴き比べれば、たしかに音質が違うことはわかるだろうが、CDと比べてそれほど大きな差があるとは思えないだろう。
「結局のところ、高価なアンプやスピーカーが必要なんでしょ?」と思う人も多いと思うが、多少のコストがかかるのは仕方がない。大事なのは、PCの内蔵スピーカーの音がどうして音質的に不利なのかということ。
これを知らないままでは、筆者にダマされて高いオーディオ機器を買わされた、という印象になってしまうかも。それは困る。今回はまず、なぜPCの内蔵スピーカーではいい音が聴けないのかを解説しよう。
PC内部は音質にとっては有害な環境
「PCの内蔵スピーカーは小さい、もしくは高品位なものではないから」と考える人も多いだろうが、内蔵スピーカーの質をウリにしているPCもあり、スピーカー自体の性能が悪いとは一概には言えない。
スピーカーの良し悪しは音質に大きく関わることだが、PCの内部が音楽信号にとって極めて有害な環境であることも大きな要因だ。前回も触れたが、ハイレゾのポイントであるレゾリューション(解像度)。ハイレゾ音源は(CD16bit/44.1kHz)以上のレゾリューションという意味だが、一般的には24bit/96kHz、24bit/192kHzなどがある。
サンプリング周波数は、96kHzならばアナログ音楽信号を1秒間に96000回サンプリング(符号化、デジタル化)しているわけだ。ハイレゾ音源の再生時は、圧縮されたデータならば元に戻し、符号化されたデジタル信号を同じようにアナログに戻している。どれだけ精密な仕事をしているかが想像できるだろうか。
ところが、一般的なPCのCPUのクロックは1GHz~2GHzくらいで動いており、kHzオーダーである音楽信号の演算処理などお茶の子さいさいだ。だが、音楽信号にとっては面倒なことが起きる。これがノイズの問題と、「ジッター」と呼ばれる時間軸精度の乱れだ。
高速で動作するCPUの発するノイズは、kHz単位でゆっくり動いている音楽信号回路に簡単に侵入できてしまい、アナログ化された音楽信号に悪さをする。そして、CPUのクロックと、音楽信号のクロック(サンプリング周波数と考えていい)が、整数倍のタイミングを合わせやすい数値であることはまれなので、デジタル信号をアナログ信号に戻す演算処理でタイミングのズレによるエラーが発生する原因になる。
わかりやすく言えば、バンドの演奏でドラムが乱れてしまい、正しいリズムで演奏できなくなってしまうようなものか。1秒に何万回の計算を行なっており、しかも誤差は極めてわずかなので、リズムやピッチが狂うようなことはないが、それでも聴感上、誰でも感じる程度の音質の劣化が出てしまう(音色が不鮮明になったり、細かい音の余韻が失われたように感じる)。
つまり、PCの内部でデジタル信号を音楽信号に戻すのは音質にとってはあまりよくない。高価なサウンドカードなどには、そのあたりの対策をきちんと行なったものもあるが、決して万全とは言いにくい。これが、PCの内蔵スピーカーでは、音質的に不利だという理由だ。
デジタル信号のアナログ化はPCの外で
ではどうしたらいいかというと、PCのHDDに保存されたデジタル信号をそのまま外部に出してしまえばいい。デジタル信号はもともとノイズに強く、PCにおいて伝送によって信号が欠落してしまうのは致命的なため、デジタルのまま出力すれば音楽信号も損なわれることなく、正確なまま外部に送り出せるわけだ。
これはすなわち、PCをデジタルトランスポートとして使用することを意味する。記録された信号をそのまま出力するだけの機械として使うわけだ(FLACなどのデコード処理も行なう)。
WindowsなどのPCはUSB端子からデジタル音声信号を出力できるので、現在のPCオーディオ再生はUSBでデジタル出力し、対応した機器で信号を受け、それなりのオーディオ機器で再生するというスタイルが一般的になっている。
出力されたデジタル信号を受け取る機器は、価格的には天井知らずのオーディオ製品なのだが、十分に手の届く予算でもハイレゾ音源の音質を満喫できる。
今回はハイレゾ入門ということもあり、複数の機器を組み合わせることなく、PCとUSBケーブルで接続するだけで高品位な音を楽しめる機器を紹介しよう。
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