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HTML5は“ノリの違い”を越えられるか?

2012年09月20日 13時02分更新

文●小橋川誠己/Web Professional編集部

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 Webページを表示するためのマークアップ言語にすぎなかったHTMLが、HTML5と周辺技術によってWebアプリケーションの実行環境へ進化し、ネイティブアプリを置き換えようとしている。さらに最近ではWebの枠を越えて、家電などのデバイスでもHTML5を利用しようという動きが活発だ。

 そうしたHTML5の現状と今後について、開発者らが語り合うパネルディスカッション「Web最先端、エキスパートたちの視点から」が、9月8日、「HTML5 Conference 2012」で開かれた。パネラーは、グーグルのエンジニアリングマネージャーである及川卓也さん、シーエー・モバイル Web先端技術フェローでhtml5j.org管理人の白石俊平さん、HTML5.JP主宰の羽田野 太巳さん、NTTコミュニケーションズの小松健作さんの4人。モデレーターは、Publickeyの新野淳一さんが務めた。

左から及川さん、羽田野さん、小松さん、白石さん

左から及川さん、羽田野さん、小松さん、白石さん

3年でこんなに変わったHTML5を取り巻く環境

 3年前、html5j.orgの前身となる「HTML5とか勉強会」を立ち上げた白石さん。HTML5に注目はしていたものの、当時はここまで盛り上がるとは予想していなかったという。白石さんが主宰する勉強会は現在では100名の定員があっという間に埋まるほどの人気ぶりだが、「初回はマンションの1室で7人ぐらいしか集まらなかった」。2008年、国内初の情報サイト「HTML5.JP」を立ち上げた羽田野氏も、「マニアだけが見ればいいやというつもりでサイトを立ち上げたら『勝手にHTML5とか名乗っているヤツがいる』と叩かれた。それぐらい世間の目は冷たかった」と笑う。

 大手通信会社に勤務する小松さんは、HTML5の普及を実感として肌で感じている1人だ。「4年前、WebSocketを知ったときには技術者としてものすごい衝撃を受けた。これからWebがとんでもないことになるなと思っていたら、今では会社の業務として取り組むようになっている」

 こうした、HTML5の盛り上がりの背景には、日々増え続けるAPIの「意外性」が開発者を魅了したから、というのが小松さんらの見立てだ。「ブラウザーでこれをやるのか? という仕様が次から次へと出てくるのが技術者としてはおもしろい」(小松さん)。“HTML5ウォッチャー”として知られるモデレーターの新野さんも「当初はvideo要素やaudio要素、Canvasなどが注目されていたのに、最近ではWebSocketやWebintentsなど、注目ポイントが変わってきている」と話す。

ノリが違う人たちとうまくやれるかどうか

 HTML5へいち早く取り組んできた4人が見るHTML5の未来も、「Web以外への広がり」だという。小松さんは「テレビ、家電、クルマなど、あらゆるデバイスがどんどんHTML5を始めとするWebの技術で作られるようとしている」と話す。

 実際、デバイス向けの関連APIも増えてきている。WebSocketやWebRTCなど、リアルタイム通信を実現するAPIも整備され、Webアプリケーション間を連携させるWebintentsも標準化が進められている。さらに、W3CのSystem Applications Working Groupでは、RawSocket API、Power Management API、Telephony APIなども議論されている。「必要な技術は揃いつつある。3年後には実際にさまざまな場面で使われるようになっているだろう」(羽田野さん)。

 一方で、グーグルの及川さんは、HTML5が広がるにつれて課題もあると指摘する。「HTML5が“Webだけの標準”だったときは、同じノリの人たちだけで標準化できた。他の分野でも使える技術となったいまでは、家電メーカーや自動車メーカーも標準化のプロセスへ参加してきている。そういった“ノリが違う人たち”と、いかにWebのドライブ感を維持しながら技術革新を続けられるかが重要だ」という。

 HTML5 Conference 2012は、html5j.org主催のコミュニティ・イベント。9月8日、慶應義塾大学日吉キャンパスで開催された。4トラック22セッションが用意され、エンジニアやデザイナーなど、約1000名が参加。主要なセッションの講演資料は、公式サイトで公開されている。

HTML5 Conference 2012の会場の様子。大勢の開発者らで席は満席に

HTML5 Conference 2012の会場。大勢の参加者で席は満席に

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