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コモディティ化、ユーザー主導型IT、グローバル戦略はこう捉える

IBM事業戦略説明会の金言から占う次の3年

2012年09月12日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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9月11日、日本IBMは事業戦略説明会を行ない、日本法人代表取締役社長となったマーティン・イェッター氏を中心に、米IBMの4人のシニアバイスプレジデントが2015年までのロードマップを語った。ここでは説明会の中から、同社ならびに業界を占う興味深いコメントを紹介する。

「コモディティビジネスから離れ、より高い価値へシフトする」

 日本法人社長のイェッター氏やグローバル・テクノロジー・サービス担当のエリック・クレメンティ氏が言及したのが、コモディティビジネスからの脱却による高価値(Higher Value)のビジネスの拡大だ。

日本IBM 代表取締役社長 マーティン・イェッター氏

 2000年代前半、ハードウェアのコモディティ化は、同社のビジネスに深刻な影響をもたらし、事業売却やリストラが進んだ。しかし、売り上げの下落は2002年に底を打ち、その後は右肩上がりで成長を続けている。その原動力となるのは、ソフトウェアとサービスで、これを実現したのが60億ドル/年のR&D、200億ドル/年の買収といった規模の投資になるという。

 イエッター氏は、「2015年までに(現在13ドル強の株価を)20ドルにまで引き上げる」という公約を立て、これに貢献する高価値な分野として、「ビジネスアナリスティック」「クラウド」「スマータープラネット」「成長市場」の4つを挙げた。また、システム分野に関しても、ハードウェアやミドルウェアを統合した「PureSystem」や、セキュリティ分野などの領域に注力していくと説明した。

 また、ソフトウェア事業を統括するマイク・ローディン氏は、「2015年までにソフトウェアビジネスをIBMの売り上げの半分にまで拡大する」とコミットした。今後も同社のソフトウェア重視の姿勢は変わらないようだ。

米IBM SVP,Software Solutions Group マイク・ローディン氏

 さらに、ソフトウェアと並んで高い売り上げ比率を誇るサービスやクラウド分野においては、高い価値を追求する。ここで重視されるのが「標準化」。「インフラの最適化」「情報から洞察へ」「リスクやコンプライアンス」「ソーシャルやモバイルでのコラボレーション」「IT戦略やビジネスオペレーションの変革」など、クライアントごとのニーズに適合するITサービスを迅速に提供すべく、カスタマイズから標準化への移行を推進する。これは「クラウドの本質はスケーラビリティではなく、サービスの工業化だ」(クレメンティ氏)と捉えているからにほかならない。

米IBM SVP, Global Technology Services エリック・クレメンティ氏

「今後はCIOだけではなく、CFOやCMOにもコンタクトしていく」

 ITの適用範囲が拡大してきたことで、情報システム部ではなく、財務やマーケティングなどの事業部門が新たな顧客になっていくという見通しを示したイェッター氏のコメントだ。イェッター氏は、「テクノロジーを使用する人が変わってきている。今後はCIOより、CMO(Chief Marketing Officer)のほうがITに対してお金を使うだろう」とまで言い切っており、情報システムだけではなく、現場部門がITのイニシアティブをある程度にぎっていくいう認識を示した。ベンチャーではなく、世界最大規模のコンピューター会社であるIBMが、ユーザー主導型ITの動向を確実に認識しているという点は、かなりインパクトのある内容だ。

 また、スマーターシティを統括するブルーノ・ディレオ氏は、市民サービスの向上を目指すプロジェクトでは、いわゆる行政だけではなく、都市計画、環境、エネルギー、交通、教育、社会&医療、治安などさまざまな分野があり、それぞれにリーダーが存在していると指摘した。こうしたリーダーたちの「適切な意思決定」「効率的なオペレーション」「事前に問題の芽を摘むこと」を支援するのが、スマーターシティでの同社のアプローチと述べた。こうした顧客やニーズの多様化は、日本でも本格的に進んでいくことになる。

米IBM SVP,Sales and Distribution ブルーノ・ディレオ氏

「日本市場はドイツ、中国、フランスを足した分より大きい」

 IBMではグローバル170カ国以上でビジネスを推進しており、先進国以外の成長市場の売り上げ貢献もきわめて高くなっている。一方で、世界第2位の市場である日本に対しても、今後も継続的に投資を続けていくと説明する。イェッター氏曰く「日本の市場はいまだにドイツ、中国、フランスなどを足した分より大きい」とのこと。また、今までエンタープライズや公共系で存在感を誇ってきた同社だが、今後は中堅・中小企業にもフォーカスし、パートナーリングも強化していくと説明した。

 ユニークなのは、首都圏以外の地方にも注力していくという点。従来の首都圏偏重の拠点配置から脱却し、「お客様により近づくための投資として」(ディレオ氏)、新たに仙台、名古屋、大阪、福岡に事務所を構える。ローカルベンダーとの競合や中堅・中小企業などの新しい顧客の開拓、あるいは北九州市や仙台、札幌など日本でもいくつかのスマーターシティプロジェクトが進んでいることからも、地方重視という選択肢は現実的ともいえるだろう。経済的に厳しい東京以外でのビジネスの勝算について記者から質問も飛んだが、「東京以外の地域だけでフランスのIT市場と匹敵する規模のチャンスがある」(イェッター氏)と高い期待を示したのが印象的であった。

「スマート化で重要なのは変革を受け入れ、分析を信じること」

 IBMの社内改革戦略を進めているエンタープライズ・トランスフォーメーション担当のリンダ・サンフォード氏は、自社のスマート化の過程についての質問に対し、このコメントを残した。ビジネスと組織を大きく変革してきた同社が、ビジネスアナリスティックで、より高みを目指していく姿勢が現れているようだ。

米IBM SVP,Enterprise Transformation リンダ・サンフォード氏

 サンフォード氏は、IBMが続けてきた変革の歴史を振り返りつつ、シェアードサービスやビジネスアナリスティックの活用例を披露した。同社では、6万点にもおよぶ重要部品の管理において、ビジネスアナリスティックの技術を活用し、「災害時でも部品がどこにあるか特定できる。出荷を漏らさない」(サンフォード氏)というシステム(Critical Parts Issue)を構築した。こうしたプロジェクトは分析プロジェクトは全社で25件展開されており、新しいビジネスの推進に追従している。

Critical Parts Issueを例にしたサプライチェーンの効率化

 さらにサンフォード氏は、こうした一連のプロジェクトについて、「大事なのはコスト削減ではない。生産性を向上させること」と述べている。冒頭のコメントも含め、リーマンショック以降、コスト削減一辺倒になってしまったITの役割を再定義する金言といえるだろう。

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