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牽引者の実像第2回

――百度(バイドゥ)駐日首席代表 陳海騰――

日本の企業にとって中国は異質な市場なのか?

2012年09月10日 12時00分更新

文● 美和正臣 撮影●小林伸

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 華僑は1970年代後半を境にして2つに分類される。70年代以前に世界各地に移住し、その地で経済活動する人々が「老華僑」である。長い年月の間に地域に溶け込んだことにより、一部の国では政治力も持ち、国家を動かす人材も輩出している。
 これに対するのが「新華僑」である。1978年から始まった鄧小平による「改革・解放」政策以降に登場してきた華僑を指し、留学などにより学問、知識、技術を習得し、移住先で経済活動を行なう人々である。

 今回のロングインタビューに応じていただいた陳海騰氏は、よく「新華僑」という言葉を使う。著書にもこの言葉を使ったタイトルのものもあり、実は新華僑という「人種」を理解するには、陳氏の行動や考え方を追っていけばいいのではないか、と感じたのが今回のインタビューをしようと考えた端緒だった。
第2回では、陳氏が大学院を卒業後、日本の企業に勤めていくところから始めよう。日本人と新華僑の考え方の違いがよくわかるはずだ。

社会経験の有無が左右した入社試験

 陳氏は1997年に神戸大学大学院を修士課程で卒業する。当時は29歳。前年の1996年には、同大学院で出逢った西安出身の女性と結婚している。卒業時の修士論文のタイトルは「日中自動車産業政策の比較」である。修士論文の中では、自国の産業を育成するために保護政策を行ない、その後どのように関税比率を下げていったのかということについて考察し、中国も同じような政策をとるべきであると結論付けた。
 この卒業を前にして、日本での就職を考え始めたのだが、外国人ということで大変苦労したようだ。

陳:日本に経済の勉強に来たわけですけど、日本企業で働かないと日本がなぜ成功するか分からないじゃないですか。だからまず日本企業というものを経験したいと思いました。もう1つは、中国は給料が安かった。初任給で言うと、当時の中国は日本の10分の1ぐらいでした。だから懸命に就職活動しました。
 でもね、入社試験を受けると大体落とされるわけです。100枚以上ハガキを出してエントリーして、大阪から新幹線に乗って東京に何回も行って試験を受けて。お金もかかるわけですよ。それであるとき気がついたんです。外国人を採用していないのではないかと。当時、日本企業はそういうことをおおっぴらに言わないわけです。だからやり方を変えました。「御社は外国人の枠はありますか?」とまず聞いてみるようにしました。枠のある所だけ受験に行くんですよ。

 このように戦略を変更をするとトントン拍子に内定が出始める。

陳:これで4社から内定をもらいました。日本の旅行会社の子会社、先物取引の会社、現イオングループのジャスコ、それにNTT関西(現NTT西日本)です。結局、給料は一番安かったけど、NTT関西を選びました。  NTT関西は中国からの留学生が100人以上入社試験を受けたのですが、受かったのは私1人でした。なぜ上手くいったかと言うと簡単です。ほかの留学生は社会人経験がなかったからです。しかも私は29歳だから年齢制限ギリギリでした。もう1つ入社してから分かったのですが、当時は大学による制限があったんですよ。大阪大学、京都大学、神戸大学の推薦枠を設けていた。

 NTT関西に入社後、6ヵ月の研修を受けることになる陳氏であるが、ここで中国と日本の企業文化の違いに驚かされる。

陳:中国の旅行会社では最初、新人ガイドとして先輩と一緒についてまわりました。ガイドしている様子を見て、聞いているだけです。それを3、4回やったら今度は自分でやらなければならない。分からないところはその都度、先輩に教わるのですけどね。いわゆる徒弟制度みたいな感じです。実は早い時はヵ月以内には終わってしまうんです。
 でも日本は逆です。大学でビジネスのことをあんまり教えていないのか、研修ではしっかりと会社の業務内容とか仕事上のマナーのことを教え込みます。海外とのやりとりをする交換機やインターネット・イントラネットの仕組み、データ通信など基礎的なことを勉強しました。実習までやるわけですからしっかりと理解できましたね。今でも研修は役に立っています。

日本と中国のスピードの差に愕然

 NTT関西では法人営業本部地域開発部に配属される。この部門のターゲットは当時建設計画が進んでいたある巨大プロジェクトで使用される情報システムにサービスを導入することと、この結果を元に中国のインフラマーケットに進出することだった。陳氏はここで通訳の担当となるが、ここで文化の差に驚愕する。

陳:23名のグループでした。ここでビックリしたのは、日本の企業のスピード感のなさでしたね。例えば先方から「来週、中国に来て説明してほしい」と言われるわけです。NTTは基本的に国内の会社だから、当時はそういう海外出張をするには副社長の決裁が必要なんですね。それがないと海外に行けない。当然、副社長はあちこちに行って社内にあまりいないから緊急の承認を取るのにも大変だったんです。
 あと、もう1つ違うのは、会議に出てくる世代。大きなプロジェクトだから中国側に建設の準備室があるじゃないですか。相手に提案する際に出て来るメンバー全員が若いんです。キーマンとなるマネージャーは30代だけど、他の人は大体20代なんです。まあ、偉い人でも40代。一方、NTT側は40代、50代が中心で、スペシャリストの肩書きのついた髪も真っ白な60代の方もいるんです。もう両者を比較すると孫と会話してるみたい。で日本側の人は「あいつらは若いから何もわからないだろう」と思っているんですね。だけど違うんです。彼らの入札だから色々な会社の提案が来ているんで大変詳しいわけです。こういう場に出てくる人は若くとも実は非常に優秀な人ばかりなんです。

 NTT関西が進めていたこの案件は、日本の大手通信メーカー各社を巻き込んだまさに「ALL Japan」体制だったという。しかし外資系大手に完敗してしまう。

陳:だいたい1年間このプロジェクトに関わりました。中国に提案に行くときも20人くらいでワーっと言って、終わったらお酒をみんなで飲むとかいい思い出です。でもシーメンスに負けてしまった。そのときビックリしたんです。大規模案件の入札に負けちゃったのに、みんなそんなに辛そうではなかったように感じた。逆にウチのグループでは昇進した人もいました。この件では日本の会社を面白いと思いましたね(笑)。
 日本の大企業は要するに「結果」と「昇進」は関係ない。日本の管理職はローテーションで回っていて、とりあえず上からやれって言われたプロジェクトが失敗しただけだから、誰も自分のことのように悲しまないわけです。

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