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ネット民による、ネット民のライブ:フリーソフト「MMD」が生んだ奇跡を振り返る

生々しさを動画で実感!アニサマ「初音ミク」ライブのすべて

2012年08月31日 12時00分更新

文● 広田稔(@kawauso3

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「歌手としての初音ミク」を目指した

 今回、ミクパートのトータルコーディネーターは、2005年、最初のアニサマを立ち上げた、ドワンゴの齋藤P氏が担当した。

 コンセプトは、「歌手としての初音ミク」。今までライブにおけるミクといえば、スクリーンの中でところせましと踊りまくるものが多かった。ただ、そのまま踊りがメインのミクを出すのは、「アニサマにおいては完全にアウェー。人間がライブをするところにミクが来て……という気持ちがお客さんには絶対にある」(齋藤P氏)。人間のアーティストの後に出てきたミクも、同じアーティストとして見てもらえるようにしたい。ベストを尽くすために選んだのは、極力ダンス成分を抑えて、ボーカリストとして調和させるという方針だ。

ドワンゴ・齋藤P氏
バックヤードにはちゃんと楽屋もありました。……が、中には入れてもらえませんでした

 非常に難度の高い挑戦を成功させるため、齋藤P氏は、鉄壁の制作チームを組んだ。

 ステージプロデューサーに指名したいのは、cort(コート)さんというMMDクリエイター(MMDer)。MMDの世界では、毎年2回、「MMD杯」というお祭りが開かれており、cortさんは505作品が投稿された第8回のMMD杯で、「天ノ弱【MMD-PV】」という作品で準優勝を獲得した。「ニコニコ大会議」や「GUMI誕生祭」といった、ニコニコ動画(ニコ動)に関係するライブでも、MMDパートを3回手掛けてきたベテランだ。

cortさん
2011年2月、ニコニコ大会議2010-2011全国ツアー FINAL2012年3月、MMD杯 in ニコファーレ2012年6月、GUMI誕生祭2012
リアルから3Dにトロフィーを渡したり、リアルの映像に3Dキャラを合成するARライブを披露したりと、かなり未来な感じのイベントでした。
ARライブに加えて、会場でもディラッドボードに投影するという、めちゃくちゃ難易度の高いライブも成功させました。

人間である“踊り手”がリアルなモーションを担当
動きの徹底した“生っぽさ”にこだわった

 生々しい動きを実現するために、モーショントレース(CGに人間の動きをトレースする)のメンバーも迎えた。「ワールドイズマイン」では、ニコ動の踊り手である「いろり」さんと「いおり」さんという姉妹が付けた動きを、モーショントレース職人である「Rick」(リック)さんがデータ化している。

 ニコ動の「踊ってみた」カテゴリーでは、好きな曲に自作の振りを付けて動画を投稿するという文化がある。さらにMMDには、その踊り手の動きをトレースして、モーション化するという流れができている。ただ、ひと口に動きのトレースといってもものすごく面倒な作業で、MMDの世界では年単位を費やしてひとつの踊りのモーションを完成させることもある。

 Rickさんは、cortさんと共に「GUMI誕生祭2012」でMMDライブを成功させた職人だ。アニサマでも、齋藤Pの指名でミクパートに参加することとなった。cortさんいわく、「彼は精密なトレースができるのが長所。ただ、短所はそれしかできないこと」。

 そこでcortさんは、見本となる動きを「オリジナルの振り付けでニコ動に踊ってみた動画を投稿していて、要望を言えば自分たちで動きを考えてくれる」という、いろりさん、いおりさんにお願いした。その動画を元に、Rickさんは3週間でトレースをやってのけたのだ。

ライブ当日に流れた映像とおなじモーションがこちら。ニコニコ動画で有名な踊り手、いろりさん&いおりさん姉妹がモーションを担当した

 もうひとつの「Tell Your World」は、cortさんが「Kinect」で自分の動きをキャプチャーして修正したもの。MMDでは「OpenNI」などのソフトをパソコンに組み込むことで、Kinectがとらえた動きを3Dキャラに反映できるようになる。Kinectで大筋をキャプチャーし、MMD上で細部を修正するという流れだ。

Kinect。マイクロソフトのUSB周辺機器で、Xbox 360につないで体感ゲームで遊べる

生っぽさを強調した、モデルの艶やかな表情

 ボーカルとしてのリアルさを持たせるために、モデルの表情にもこだわった。

 cortさん自身はビジュアル系バンド出身者。ステージで歌うこと、ライブでお客が求めていることを肌感覚で知っている。「モデルの表情は3Dアニメを知らない人でも伝わるので特にこだわった」(cortさん)ため、Rickさんが上げてきた「ワールドイズマイン」のモーションも表情だけ半分ほど修正した。特に「Tell Your World」のサビ終盤、眉間に自然にしわをよせて力を込めるシーンでは「3Dキャラでもこんな表情が出せるのか」と感動を覚える。

会場で流したマスターデータよりキャプチャー。「歌うと3Dのミクと同じ顔になるんですよね」(cortさん)

 ライブ当日は、カメラマンの底力も味方した。

 アニサマ会場はあまりに広すぎる上、スクリーンの初音ミクは設定と同じ158cmで再現しているため、会場の前列以外は米粒ほどのサイズになってしまう(同じ位置から見たらほかの出演者も当然米粒になるのだが……)。ステージの左右とアリーナ後方中央の3ヵ所には、見えない席の方向けに巨大スクリーンが立てられている。ただ、「リアルの人間を撮るのに慣れてるカメラマンが、平面かつ立体のミクさんを写すのは難しい」(齋藤Pさん)とのことで、リハーサルを2日実施し、曲とモーションを入念に覚えてもらった。当日、的確なカメラワークでミクのリアルさを体感した人もいるはずだ。

背景LEDに流れるムービーは、ニコ動の有名動画師、三重の人が担当した

 26日のセットリストでは、ミクの前がシンガーソングライターの織田哲郎さんと元WANDSの上杉昇さんというシークレットゲストが歌う「世界が終わるまでは…」、後が「(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!」で今年のネット流行語となっているテレビアニメ「這いよれ! ニャル子さん」のオープニング曲「太陽曰く燃えよカオス」だった。そんな目玉に挟まれながらも、まったくひけをとらないパフォーマンスが生まれたのは、素晴らしいソフトとモデルに加えて、制作陣が丹念な準備を積み重ねてきたからにほからなない。

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