このページの本文へ

前へ 1 2 3 4 次へ

Apple vs. Samsungの特許侵害裁判が決着

Appleが特許裁判完全勝利、日本での判決も各国に波及か

2012年08月27日 22時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 8月24日(米国時間)、米Appleと韓国Samsung Electronicsの特許侵害裁判の判決が、北カリフォルニア連邦地方裁判所にて言い渡された。

 その内容は、Appleが保持する7件の特許を侵害したとして、Samsungに対して10億5000万ドルの賠償責任が発生するという、Appleにとってほぼ完全勝利に近いものとなった。今回はこの裁判の背景に触れつつ、争点や判決、そして今後の影響について簡単に考察してみよう。またApple全面勝訴後、初の海外判決が今週末日本で出る見込みで、米国外における裁判に影響する可能性が高いのだ。

イレギュラーづくしの特許侵害裁判

 本裁判の始まりは2011年4月にさかのぼり、AppleがSamsungに対して「類似製品での過剰コピーで同社の権利を阻害している」との理由で製品の販売差し止めと損害賠償請求を行なったことに由来する。

 Appleは2007年に「iPhone」で初めて携帯電話事業へと参入したが、この後SamsungはAndroidをベースにした「GALAXY S」シリーズなど多数のスマートフォン製品で同種の全面タッチスクリーンデザインを採用。これが消費者の混乱を引き起こし、Appleが積み上げてきたユーザーインターフェース(UI)技術や製品デザインを製品コピーにより侵害したというものだ。

 一方Samsungは、こうした盗作を訴えるAppleの姿勢を非難しており、データ通信に関する特許を盾にAppleを逆提訴する動きを見せた。この裁判は米国だけでなく、両社の製品を扱う日本を含む世界各国で展開されており、特許侵害の認定と製品販売差し止め請求と合わせ、いまだ両社の攻防が続いている。

“部品メーカー”Samsungにとっては、
Appleは世界最大の顧客

 今回の裁判では、いくつものイレギュラーなケースが散見され、これまでの競合同士の裁判にはない特殊な様相を見せていた。ひとつはAppleとSamsungは完成品市場では互いに競合だが、iPhoneを含むAppleの多くの製品ではSamsung製の部品を大量に使用しており、供給者と顧客の関係にある点だ。

 部品メーカーとしてのSamsungにとって、Appleは世界最大の顧客なのだ。一方で、Appleは裁判に前後してSamsungへの1社依存の体制を見直しつつあり、可能な限り部品の複数ソースからの調達を進めている。

裁判の争点が比較的あいまい
―「製品デザイン」「ユーザーインターフェース」

 ふたつ目は裁判の争点が「製品デザイン」「ユーザーインターフェース」といった、比較的“あいまい”な部分にあり、これが判断を難しくしている点だ。同件をレポートしているWall Street Journal(WSJ)記事中の記述には、「技術企業の多くは“製品の見た目”よりも“実際の動作”に主眼を置く“ユーティリティ特許”に深く依存しており、“製品デザイン”が争点となった今回の裁判は新しい概念を切り開く可能性がある」という関係者らの指摘があり、それだけレアで初のケースだということが分かる。

 実際、ネブラスカ大学ローカレッジの准教授Christal Sheppard氏は同裁判が連邦最高裁へともつれ込む可能性を指摘しており、その場合、21世紀の発明がソフトウェアにとってどのような意味を持つのかを判断する象徴になるかもしれないという。

多くの一般ユーザーが裁判の存在を認知

 3つ目は、両社ともに世界規模の著名な企業の争いであり、裁判の様子や影響などがTVなどのメディアを通じてたびたびレポートされ、多くの一般ユーザーが裁判の存在を認知していた点だ。次のポイントにも続くが、ある意味で情報戦が中心だったといえる。

裁判外での“場外乱闘”―意図的なリークも

 そして4つ目は、今回の裁判が、ここ数週間にわたって行なわれてきた関係者らによる公聴会の証言よりも、裁判外での“場外乱闘”のほうが話題になった点だ。AppleとSamsungともに裁判開始前に多数のアピールを行ない、自社の主張が正しいという印象を一般や陪審員に与えようという公開舌戦が繰り広げられてきた。

 特に過剰だったのはSamsung側で、必要以上にAppleに対して証拠として(まだ未発表の)開発中の新製品の提出を要求したり、あるいはAppleから証拠として裁判所に提出された製品プロトタイプやデザインスケッチをメディア関係者に意図的にリークした。

 一般ユーザーには未公開の新情報が得られてうれしい反面、倫理的に許せる範囲を逸脱していた様子も見受けられる。いずれにせよ、今回の裁判を通してわかった新事実も多く、Appleの製品と成りを知るうえで重要な機会だったといえるかもしれない。


前へ 1 2 3 4 次へ

カテゴリートップへ

ASCII.jp RSS2.0 配信中