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西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第98回

フルHD超タブレット ASUS Pad TF700TはiPadに勝てるか?

2012年08月24日 12時00分更新

文● 西田 宗千佳

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 他方、この解像感を最もうまく生かせるのは電子書籍なのだが、既存の書籍から作られたデータ(スキャンや画像系PDFから作られたもの)を見る場合には、むしろアスペクト比の問題の方が大きいだろう。紙の書籍の縦横比は「1.4:1」近辺で、現行iPadの「4:3」(1.33:1)により近い。TF700Tは「16:10」(1.6:1)で、バランスはよくない。そのため、特に横長の状態で使った場合、左右に有効活用されない領域が出やすく、その分解像感も落ちる。この点では、第3世代iPadの方が圧倒的にいい。

 もちろんこの種の問題は、ウェブや文字データ化された電子書籍、写真では出ない。紙の縦横比に縛られない、「ボーンデジタルなコンテンツ」の良さといってもいい。他方で、書籍的なものにおいて16:10というアスペクト比が本当に自然か、という疑問も残る。余談になるが、もし新しいiOS機器が、噂通りアスペクト比を変えてきた場合、同様の問題を抱えることになるが、それにUI/ソフト面でどういう折り合いをつけてくるのかは、個人的に気になるところではある。

ハイスペックながら薄くて軽い
バッテリー動作時間も優秀

タブレット部単体では、iPadよりも薄くて軽い。性能面を考えれば優秀だ

 タブレットとしてのTF700Tを見ると、ディスプレーパネル以外のスペックは「現在のハイスペックタブレット」そのものに思える。

 SoCはNVIDIAの「Tegra 3」(1.7GHz)。メインメモリーは1GBで、搭載されているストレージ量は32GBと64GBのモデルが用意されている(今回は64GBモデルを評価)。解像度は上がっているものの、それによって動作速度が下がっていると感じた局面はそう多くない(その局面については後で詳しく触れる)。これ以上のタブレット向けプロセッサーもそうない以上、「こうなるべくしてこうなった」というスペックではある。若干発熱はあるが、利用中に気になるところはなかった。

 タブレット部は、スペック上は「9.5時間」バッテリーで動作することになっている。無線LANで常にインターネットにつなぎ、Twitterクライアント「Twicca」で3分に1度新着をチェックした上で、YouTubeのHD映像(720p)を連続再生するテストをしてみたが、結果もこのデータからそう乖離していない。

 パフォーマンス設定を「バランス」にして、液晶ディスプレーの「Super IPS+」をオン、輝度を自動調整にして動作させた結果(すなわち比較的負荷の高い常用に近い状態)が、約8.3時間の動作。パフォーマンスを「省電力」にし、「Super IPS+」をオフ、輝度を自動調整にして動作させた結果(動作時間重視状態)では約9.4時間と、スペック表記にきわめて近い値が得られている。後述する「モバイルキーボードドック」の内蔵バッテリーと合わせると、14時間近い動作が可能になるわけで、「長時間動作」に期待する向きには間違いなくお勧めできるレベルといえる。

 なにより筆者が良いと思ったのは、これだけ内容が充実しているにもかかわらず、タブレット部が薄く・軽く維持されている点だ。タブレット部だけでの薄さは8.5mmで重量は598gと、iPadよりも薄く軽く、現状の10インチクラスタブレットでも上位にある。もっと軽いものや薄いものもあるが、高スペックかつ解像度も高いことを思えば、十分に満足できる値だ。

本体前面。上半分がタブレット本体で、その薄さがわかる。ボディーのサイズはTF201と同等で、現行製品のTF300Tより薄い

「モバイルキーボードドック」の価値が光る
高解像度の価値に見合うかは人次第

ASUS Padの特徴である「モバイルキーボードドック」。タブレットをPC的に使いたい人に人気があるのもうなずける

 ASUS Pad(Transformer)シリーズの特徴であるのが、バッテリーを内蔵したキーボード「モバイルキーボードドック」の併用だ。コンテンツメーカーの人々などの話を聞いても、「Androidタブレットのユーザーは、iPadユーザーに比べPC的な使い方を求めている」と言った言葉が出てくる。その姿に最も近いものであり、実際人気もあり、使い勝手もいいから続いているのだろう。

 TF700Tのモバイルキーボードドックも、構造的には前モデル「Eee Pad TF201」のものと同じだ。10インチクラスなので若干キートップは小さめだが、タイピングには十分な大きさである。バッテリーを背負っているせいか、剛性もかなりしっかりしていてたわみもない。

 構造上、あまり奥までディスプレー部(というかタブレット部)を倒すことができず、膝の上で使う場合にちょっと窮屈な印象を受ける、という点も、他モデルと変わっていないのは残念なところではある。タブレット部が7割程度までバッテリーを消費すると、そこからはモバイルキーボードドックからタブレット部のバッテリーを「充電しつつ動く」形になっていて、けっこう便利だ。

キーボードドックの接続コネクター部。奥側にはあまり倒れないので、場面によってはやや窮屈か

 ただし、タイピングの感触はあまりいいと思わなかった。キーの押し下げ感に「クニュッ」とした部分を強く感じたからだ。テストした個体の問題かもしれない。モバイルノートはもちろん、最近はBluetoothの外部キーボードも競争が激しくなり、タイプ感も改善の方向にある。その中でTF700Tのキーボードは、優れた体験とは言いがたい。

 他方で、タッチパッドの方は相変わらず良好だ。もう少しチューニングすればもっと気持ちよくなりそうとは思うが、十分納得できる範囲である。そもそも、画面のタッチとタッチパッドの両方を、その時のニーズや快適さに合わせて使い分けられるのは、ASUS Padが他のタブレット機器より有利な点だ。おそらく今後はこういう構成の機器が増えていくのだろうが、そのいい試金石といえる。

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