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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第1回

「責任の取れる範囲で出ていきたい」メレ子さんの距離の取り方

2012年08月17日 12時00分更新

文● 古田雄介

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わさおの件はブロガーとして失敗だった

―― そのバランス感覚の鋭さは、「わさお」の件でも発揮されていると思います。メレ山さんがわさおを紹介したあと、わさおは多分誰も想像できないレベルでスターダムを駆け上がっていきました。それでも、メレ山さんはそれに浮かれたり引いたりしないで、一定の距離を保っているように見えます。その距離感が絶妙です。

メレ山 渦中にいた本人としては、ブログでわさおを紹介したあとの反響の大きさに、うれしさ以上に、「自分の犬じゃないのに、こりゃまずいことになったなぁ……」という気持ちになりました。自分の犬が大ブレイクしたのなら自分でコントロールできますけど、他人の犬を紹介して予想外に広がってしまった、というのは、ブログを運営する側で言うと、結果が良かっただけで、失敗だったのかなと思っています。

 やっぱり自分が責任を取れる範囲で世に出ていかないと、というのもありますし、そこで舞い上がるというのはできませんでした。

 幸いなことに、わさおのお母さんや「わさおの秘書」こと公式ブログ(わさお通信:今日のしっぽ)管理人の吟さん、鰺ヶ沢町観光協会さんなど周囲の方たちが、わさおのことをちゃんと考えてプロデュースしていこうという流れでサポートされていて、わさおの生活を守りつつ、みんなにかわいがられつつというのが両立できています。でも、もしひとつでも欠けていたら、途中で事故が起きたりして大変なことになっていたと思うんですよ。私が怒られて終わり、みたいなことも十分ありえたでしょうし。

わさおの記事を紹介したあとは、「日々問い合わせが増えたり、一言コメントくださいと依頼をいただいたり」と普段と違う度合いの反響が来た。その後、深夜テレビにわさおが登場したのを見て「まずいことになった」と感じたという


―― それでも「引く」一辺倒にはならず、ときにブログでわさおTシャツを紹介したりと、自分のテリトリーを守りつつ応援しているのがすごいと思います。

メレ山 普段からわさおに接している人たちが、わさおのことをちゃんと考えて動いていますし、外からもそれが分かる状況なので、私は外部の人間としてやれる範囲のことはやって、口出しはしないようにと思っています。

 ただ、今でもそれはうまく保てているという意識はなくて、ギリギリのところに立っていると思っています。

「わさおTシャツがやって来た」(2009年1月7日掲載)。公園の鹿と戯れながら、わさおTシャツを着用して宣伝している。記事の最後には、「わさお訪問について再度お願いと思うこと」というメッセージが添えられている


―― なお、応援記事がたまにある以外、わさおネタをプッシュする感じのネタは挙げていないですよね。わさお目当てでブログに来る人も多かったと思いますが、そこは意識的に“いなして”いるんですか?

メレ山 そこはですね……動物好きの人は皆そうだと思うんですけど、動物は好きだけど動物マニアはあんまり好きじゃないんですよ(笑)。もともと「ネコの駅長」とかアイドル犬とかをわりと冷ややかな目で見ていましたし。人間に都合のいい台詞を当てられてアイドルっぽく扱われるのではなく、動物は役に立たないけどかわいいって言われて育ってほしいんですね。


―― 「いい気持ちだワン」みたいな感じ(笑)に与(くみ)しないと。

メレ山 「待ってるワン」みたいな(笑)。待ってるわけないだろって思うんですけど、そういう表現に違和感のない人たちに注目されていくのが、すごく怖いことだと思ったんですよね。中には、想像力の足りなさから自分本位な迷惑行為をしてしまう人もいると思うんですよ。その人たちがわさおに会いに行こうと思うきっかけを与えてしまうのが怖いなと。

 わさおを見たとき、地元のイカ焼き屋さんで自由に飼われている犬が、見たこともないような規格外な感じで、店のお母さんが「本当にばかな犬なんだよ」と言いながらかわいがっていて。もともと捨て犬だったという話も聞いて。その飼われている小屋の先には日本海が広がっていて……。その風景自体がすごく良くて。そのペットとしての理想的な風景を紹介したいなと思ったんですよね。

 なんですけど、それで特別な犬――アイドル犬が一匹できるきっかけになってしまったわけで、そこには複雑な気持ちがあります。

現在わさおの生活は、観光協会など関係者たちによって守られている。ブログには「犬との接し方に自信がない人は、もしわさおに会いに行くことがあっても眺めるだけにすることをおすすめします」など註釈を入れた

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