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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第101回

プロが仕事を諦める時 対談・佐久間正英×佐藤秀峰【業界編】

2012年08月05日 12時00分更新

文● 四本淑三

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電子書籍と音楽配信の関係

―― 佐藤さんの漫画 on webみたいに、自力配信しようという人はいないんですか?

佐藤 みなさん興味はあると思うんですけど、本当に売れっ子で忙しい人は、もう本当に食べるのと寝る以外、仕事しているという状況が何年も続くんで。気にはなっているけどっていう。

佐久間 そんなことやってられないんだ。

佐藤 僕はたぶん恵まれた状況にあって、ヒット作がいくつかあって、今は月40枚くらいしか描いていないんで、頭に多少余裕がある。一番描いていた時期は、その2倍くらい描いていたので、それに比べればずいぶん楽です。夜も寝れるし、散歩もできるし。日曜日も休めるし。

自身のサイト「漫画 on web」を運営している佐藤さん。隣接権や漫画のWeb配信の話が作家から出てこない理由の1つは多忙さにもあるという

―― そういう当たり前のことができないほど忙しいと。佐藤さんが今やられている仕事では、やはり紙の比率の方が高いですか?

佐藤 そうですね、今のところ紙のほうがずっと大きいですね。漫画 on webは、全然儲かってないです。人件費を回すだけという感じで。あんまり買ってくれないんですよね。有料だと。

―― 音楽の世界では、まだ配信ではスタッフの給料すら出ないような気が。

佐久間 だから若い子たちは逆に無料化に向かっていて、自分たちの音源をタダで聴いて貰って、アルバムを買ってもらおうという動きになっているんじゃないかな。

佐藤 佐久間さんの他のインタビューで読ませていただいたんですが、ダウンロード違法化の問題もすぐに古くなるんじゃないかって仰っていましたけど。

佐久間 音楽に関してはストリーミングになっていくと思いますね。インフラ整備の問題だけで。

―― クラウドシステムの場合は、ライブラリの数がないと売りにならない。なのでよほど会員数が多いか、それなりの料金設定にできなければ、ミュージシャンへ配分できる規模にはならないですよね。

佐久間 もう一つ問題は、仮にスポティファイ(クラウド音楽配信サービス)みたいなものが日本で5社できたとして、それぞれ入っているものが違えば、どこを使うかでこれまた困るわけでしょ。クラウドで究極のシステムを目指すと、一ヵ所ですべての音楽が聴ける国会図書館のようなもの。そういうのをやらないと無理かなと思う。

スポティファイ

―― 佐久間さんは昔からそれを仰ってましたよね。

佐久間 僕は80年代くらいからそう思っていて、CDにするときデジタルデータにするなら、それをやるべきだろうと。その頃はストリーミングができるなんて思っていなかったけど。でもそれをやると、独占だ何だと言われてしまう。国がやっても、色々問題があるだろうし。僕が理想とするのは、歴史上残っているすべての音源が一ヵ所にあるというもの。そういうシステムでない限り、結局ユーザーは困ったまま、出す側も困ったままという状態が続いてしまうと思う。

クラウドはすべての音源を包括する巨大なデータベースになるべきだと佐久間さん。「ぼくが理想とするのは、歴史上残っているすべての音源が一ヵ所にあるというもの」

―― ところが漫画の場合は、週刊誌を読んでいた癖があるので、面白い連載があるならサイトを登録して読もうか、という気になるんですよね。バラバラにあっても不便とは思わないんですよ。不思議なことに。

佐久間 音楽は連載感覚ないからね。

佐藤 サイトがひとつの雑誌みたいな扱いにはなるかも知れませんね。ただ、音楽の場合は、何十年も前のレコードを若い人が手に入れて影響を受けるということもあると思うんですけど、漫画はあまり手に入らないんですよね。何十年前になってしまうと。

佐久間 よっぽどの名作とか巨匠の作品とかじゃない限り、そうでしょうね。過去の作品をデジタル化する動きってないんですか?

佐藤 まだまだですね。結局お金にならないから。

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