京都のゼネックITソリューションズ(以下、ゼネックITS)は、クラウドサービスのストレージとして、EMCのユニファイド・ストレージ「VNX」を導入した。地域密着型のSIerがクラウドサービスを提供する意義、そしてVNX導入に至った経緯をゼネックITSに聞いた。
あえて自社でクラウドを立ちあげる
ゼネックITSは中堅中小企業向けのITソリューションを提供すべく、親会社であるゼネックのソリューション事業部が独立・分社して2年前に設立されたシステムインテグレーターだ。長らく製造業や流通・卸、サービス業に対して販売・生産管理などのシステムを提供してきたアプリケーション開発メインのSIerだったが、10年前からはインフラ構築や運用まで手がけるようになり、ゼネックITS設立以降は中堅中小企業(Small and Medium Business)に対して、ワンストップでITを提供することに焦点を当てている。
同社が「CloudCube」というクラウドサービスを自社で立ち上げることになった経緯も、この「ワンストップ」という要件を満たすためという背景が大きい。ゼネックITS 取締役の鹿島弘之氏は、「SMBのお客様は『こんなシステムが導入したい』ではなく、『こんなことやりたい』という漠然としたニーズから相談に入ります。われわれがこれを実現しようとすると、結局システム構築からコンサルティング、保守、アフターフォローまで含めて提供する必要があるんです」と、ワンストップにこだわる理由をこう語る。こうした中、クラウドの波に取り残されないよう、2年前の設立当初からサービス導入を検討していたという。
では、国内でも数多くの事業者が存在する中、なぜあえて自前でクラウドサービスを立ち上げることにしたのだろうか? これについて鹿島氏は、「やはり社外の業者と組むといろいろ時間がかかります。あと関西では、なるべく手元にデータを置いておきたいというお客様が多いんです」と述べる。また、前述したインフラ構築においてもすでに実績ができており、特にVMwareを用いた仮想化環境の構築では大規模な事例を抱えるようになってきた。この結果、「自分たちで作った方が速いという判断に至りました」(鹿島氏)とのことで、地元のデータセンターに仮想化環境を構築し、クラウドサービスとして提供することになったという。
こうしてクラウドサービスの提供を決めた同社だが、ポイントはIaaSでの儲けをビジネスのゴールとしていない点だ。鹿島氏は「われわれが目指すのは、あくまでアプリケーションを提供するクラウドなので、とにかくインフラは迅速に立ち上げようと思いました。あと、障害を減らすために構成を極力シンプルにしようと思いました」と話す。こうした背景があったため、実績のあるVMwareによる仮想化環境をスピーディーにリーズナブルに構築するのを目的に、サーバーやネットワーク、ストレージなどのハードウェアを選定した。
VNXはパフォーマンスが違っていた
サーバーやスイッチはコスト重視で機種が決まったが、課題になったのはストレージである。システム構成上、ファイルサーバーとブロックストレージの2種類が必要であったため、ブロックストレージに別途NFSサーバーを組み合わせるか、両者を1台でカバーできるユニファイド・ストレージが求められたという。また、サービスとして提供するため、コストに関する条件も設定されたほか、基幹系システムをプライベートクラウドに移行する案件を見据え、パフォーマンスも重視された。この要件で、EMCやネットアップ、HP、デル、IBMなどのストレージ製品で比較検討を行なったという。
この結果、選定されたのがEMCのユニファイド・ストレージ「VNX 5300」だ。低廉な価格のユニファイド・ストレージというのが選定の理由ではあるが、大きいのは単一のハードウェアとして見た場合のパフォーマンスだという。鹿島氏は、「弊社は独立系のインテグレーターなので、さまざまなベンダーの製品のベンチマークを持っています。それらを見ると、サーバーアーキテクチャーの他社製品と比べ、VNXはパフォーマンスが明らかに異なっていました」とVNXを高く評価した。「(エントリモデルの)VNXeでも大丈夫じゃないかとすら思いました」(鹿島氏)というくらいであったという。
また、コスト面でも、VNXは総合的に優れていた。「(リソースが増えることが前提の)クラウドサービスなので、増設したときのコストも重視しなければなりません。VNXの場合、他社製品のようにヘッドを増やさなくても、十分なパフォーマンスが得られますし、ユニファイド・ストレージなのでブロックストレージとNASを別々で導入するのに比べても低廉でした」と鹿島氏は説明する。
とはいえ、必ずしも最安値の製品を選定したわけではない。インフラの構築・運用を手がけたテクニカルエンジニア 五十嵐 渚氏は、「製品選定における性能の条件は鹿島と意見が一致したのですが、唯一割れたのは自分が安心して使えるものかという点でした。(安心して使える)VNXは一番安い製品ではなかったですが、EMCさんも提案をがんばってくれたので、折り合いのつく導入になりました」とエンジニアとしての意見も取り入れての選定であることを強調した。
鹿島氏は、選定に関してはEMCのブランドも大きかったと話す。「昔、EMCのストレージは、われわれのような会社で触っていけないものだと思っていました(笑)。高価なイメージもありましたが、専業ベンダーでありながら製品はそれほど高くないんです」とのことで、ハイエンドなイメージのあるEMCのストレージを自社で導入できるようになったことは感慨深いようだ。
シンプロビジョニングの活用やSSD導入計画も
製品選定の結果、2011年12月にVNX 5300を発注し、なんと年末に納品が完了したという。導入したブレードサーバーの納品遅延で構築作業がずれるというトラブルはあったものの、関西の最新データセンターに仮想化インフラを構築。5月初旬にはサービスインにこぎつけている。「構築実績もあったので、導入に関してはなにも問題ありませんでした」(鹿島氏)ということで、スピーディなインフラ構築を実現した。
導入したVNXにはSASとNL SASのHDDを搭載し、10GbEのiSCSI経由でサーバーと接続。VNXに搭載したディスクアレイをGUIからプールとして切り出し、VMware vSphere 5の仮想サーバーに提供。この仮想サーバーをエンドユーザーにリソースとして提供している。「初期投資を回収する目的で、OEMでのクラウド提供も行なっています。OEM先からAPI経由でリソースを呼び出せばよいので、簡単です」(鹿島氏)とのことで、順調にビジネスも拡大しているという。
性能面での評価も高い。五十嵐氏は、「先日もOracle DBへのランダムアクセスでかなり負荷をかけましたが、問題ありませんでした。あるお客様からは、他社のクラウドに比べて性能が高いと言われましたので、ここはストレージの恩恵だと思います」と導入効果について語っている。
「とにかくシンプルに」という要件から、ストレージ固有の機能は極力使ってない。しかし、部分的にはシンプロビジョニングを用いてディスクの効率的な利用を試しているほか、自動階層化についてもサービスとしてうまく提供できないか模索しているという。「VNXを導入した理由の1つとして、SSDが使えるというのがあります。まだ高価なので案件ありきですが、導入効果は絶大なので、今後は試してみたいです」(鹿島氏)。
クラウドは新しいビジネスに発展する
こうしてスタートしたCloudCubeだが、同社にとってみれば、これも通過点に過ぎない。サービス開始と共に、さまざまな案件も寄せられ、サービスの拡充が要求されているのだ。鹿島氏は、「まずサービスの従量課金制をスタートさせますし、年内にはPaaSも実現できるようにします。また、ディザスタリカバリのニーズが高いので、重複排除ストレージやVMwareのSiteRecoveryを用いたDRサービスやバックアップを予定しています」とサービス計画について、こう説明する。
鹿島氏がクラウドに抱く期待は大きい。SMBに対してきちんとコンサルティングを施すことで、導入の敷居を下げる。導入の方策として、リソースの無駄使いをあえて指摘するサービスがあってもよいと主張する。「どこの企業もクラウドに移行すべきですし、われわれにとっても必ず新しいビジネスに発展すると信じているんです」(鹿島氏)。そんなクラウドサービスの立ち上げを順調に踏み出すため、VNXは大きく貢献したようだ。

この連載の記事
-
第61回
Team Leaders
リード発掘の秘訣は「ベテラン営業の知見×法人DB」 USEN ICT Solutionsにおける営業DXの歩み -
第60回
Team Leaders
規模拡大するSansanが抱えた“成長痛”、Notion全社導入と定着化で克服 -
第59回
ITトピック
「フェリーの待ち時間に仕事がしたい」島しょの自治体・竹富町がM365で進めるDX -
第58回
ビジネス・開発
モノタロウのデータ活用促進、秘訣は“縦に伸ばして横に広げる” -
第57回
ビジネス・開発
“物流の2024年問題”を転換点ととらえ社内データ活用を進める大和物流 -
第57回
ITトピック
米の銘柄をAIで判定する「RiceTag」 検査員の精度を実現する試行錯誤とは? -
第56回
ビジネス・開発
ノーコードアプリ基盤のYappli、そのデータ活用拡大を支えるのは「頑丈なtrocco」だった? -
第55回
ビジネス
国も注目する柏崎市「デジタル予算書」、行政を中から変えるDXの先行事例 -
第54回
IoT
“海上のセンサー”の遠隔管理に「TeamViewer IoT」を採用した理由 -
第53回
ネットワーク
わずか1か月弱で4500人規模のVPN環境構築、KADOKAWA Connected -
第52回
Sports
IT活用の「コンパクトな大会運営」20周年、宮崎シーガイアトライアスロン - この連載の一覧へ