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Winnyの金子氏が夢見る次世代高速ネットの世界

2012年08月07日 12時00分更新

文● 美和正臣

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プログラマーは大道芸人と同じ
動くとわかっているものはおもしろくない!

――金子さんは42歳ということですが、その歳でプログラマーというと、脂がのりきっている時期ではないですか?

金子:私はそもそも、すみかが違うんですよ。

――と言いますと?

金子:私は実はプログラマーじゃない。仕事は「プログラマーか?」というと違うんです。話す言語がプログラムなだけであって、仕事としてはプログラムを書くことは仕事にしてきていません。私の中でプログラマーって何かというと「大道芸人」みたいなもので、ちょっとした面白いものを作ってネットワークで公開して、「これ、どうですか?」ってみんなに広めるのが役割だと思っているのですよ。そういうものを仕事とは言いづらくて……。趣味で公開しているはずが、気がつくと次の仕事になっているというのもアレなんですけどね。あとね、商用ソフトというのは「おもしろきゃいい!」って世界じゃないですからね。当たり前なんですが。

明石:元々ソフトウェアのエンジニアではないですし、金子さんはいわゆるプロフェッショナルなプログラマーになろうとも思ってないですしね。

金子:ああ、無理だね。

明石:ひらめいたり、こういうものが実現できないかなというものを「プログラム」という言語を使って表現しているわけです。

金子:「これ動くじゃん」と実証するわけですよ。Winnyもそうだったのですが「動く可能性がある物が好き」であって、「動くとわかってるもの」はつまらないんですよ(笑)。誰も作れないというか、私も動くと思ってないものが好きなんです。ちまちまいいじくっているのが好きだから、長いこといいじくっていると、奇跡的に自分でも「なんで動くのかわからない」ものができて、見せて楽しむという感じなんです。

明石:SkeedCastも最初のバージョンを出してから6年、7年になるのですが、金子さんが作った特異性とか技術の高さは世の中に抜きんでてるものがあると思います。いまだにP2Pの代表格であるBitTrrentはトラッカーサーバーというインデックスサーバーを前提にして動作しています。スカイプだってスーパーノードというものがある意味インデックスサーバーですよね。Winnyがそうですけど、われわれの分散というのは、インデックスサーバーとかトラッカーサーバーという、どこかに誰かが一旦聞きに行ってアドレスのありかを教えてもらうというアーキテクチャーじゃなくて、1人1人が「このデータのこの部分をあいつが持ってる」と教えあう、完全な分散アーキテクチャーなんですね。私がP2Pに可能性があると思っているのはまさにそこの部分です。これからソーシャルメディアの世界がものすごい規模で、スマートデバイス含めて繋がりだしたときに、トラッカーサーバーとかスーパーノードみたいなのを立てて、分散して成立するのかという疑問があります。

――これからどういう展開をしていこうと考えていますか?

明石:金子さんのような人が経営という立場も含めて、日本のソフトウェア業界をリードしていくというのは1つのモデルにもなると思うし、必要だと思います。よく日本のソフトウェア会社って、大手のキャリアに採用されましたとか、ゲーム機に採用されましたといって、そこで止まってしまうところが多いのですが、われわれは国内で終わるのではなくて、先を見込んでグローバルに商売できる会社まで持っていきたい。そうしないと、こういうアプリケーションより深いレイヤーの技術というのは広がっていかないでしょうし。ここで高速データ転送で一発勝負して終わりでなくて、そういう革新的なものを生み出していく会社にしていきたいですね。

金子:世界に打って出ていきたいということですね。

明石:この業界、スピードが速いんですよ。アマゾンがこんなことになってるなんて、5年前では誰も思わなかったですよね。ECの本屋の会社からクラウドの会社になったわけですから。日本の国内の大手に採用される・されないというスピード感で事業をやってると取り残されてしまう。そこで終わらないような形で今後も事業を作っていきたいし、それには新しいものを生み出していくエンジニアの力が必要です。

金子:すごいものを作っていくしかないですね。

――金子さんは若手の優秀な方にとおっしゃってますが、これからもまた思いついたら何か作るんですよね?

明石:聞くとすごいもの作っているのですけど、これをどう商売にするの? ってものなので(笑)。頭では考えているので、金子さん、時間をくださいという状況です。

金子:儲かるものは得意じゃないんですよ(笑)。判断基準は、おもしろいかどうかなので(笑)。いくつかあるので機会があればお見せすることもあるかと思いますよ。

明石:金子さんのアイデアを受け止めるような会社にならないと。

――じゃあ、最後に読者にメッセージがあればお願いします。

金子:ファイル転送で困ってる方はいらっしゃると思うんで、ウチに持ってくれば、一手に引き受けてますから。ウチにある技術で解決できると思いますので!

明石:ソフトウェアの開発っていうのは、今までの日本が得意としてきたメーカー的なアプローチとは違うものが必要だと思います。クオリティも大事ですけど、従来のハードウェア的な99%のクオリティを目指してやるよりは、早く市場にモノを出して、とくに技術に対して理解いただけるようなお客さんとやりとりしながら改良していくというスピードがすごく大事になってきています。そういうエンジニア魂を持っている方って日本にたくさんいると思うのですが、日本のゼネコン型ソフトウェア業界では、なかなか活かせない仕組みになってると思うんですね。そういうエンジニアの方と、お客様であってもいいし、一緒に参画してやっていただくのでもいいし、一緒に風穴を開けていくようにどんどん交流していきたいなと思っています。

――おふたりのコメントを聞いていると、逆にしたほうがいいのじゃないかって感じがしたんですが(笑)。

金子:これでいいんですよ(笑)。日本人の悪いところは、みなさん真面目過ぎちゃって、ソフトウェアを作り込んじゃうところなんですよ。工業製品では品質があるというのはいいことなのですけどね。ソフトウェアは著作物でもあるから、それをやってるとキリがない。私がよく言ってるのは、ある程度上手に、いかに手抜きをするかが重要ということなんですよ。どんどん外に出してお客さんからの声をフィードバックするべきだって言うんです。ソフトウェア業界の特殊性を明石さんはよく把握されているんですよ。

明石:日本の技術力ってすごいし、ソフトとハードで技術力の差があるとはどうしても思えなくて。でもハードで強かった日本が、なんでソフトウェアでこんなに勝てないのか、金子さんと付き合っていてわかりました。ここですね、作り込むまで出さないから、スピード、コストの競争で負けてしまうんですね。80%から99%までのコストと、80%まででは全然違う。クオリティをないがしろにするというのではなくて、そういう業界なのに、そうじゃない形のものでみなさん苦労されている。

金子:見切りが重要なんですよ。

明石:金子さんが言うんですよ、「ソフトをよくする方法は簡単だ」と。「とにかくフィールドに早く出して、使ってもらって、一番文句を言ってくる奴の相手をすればいい」のだと。

金子:うるさい順から、わかった直すよ直すよ、ってやっていけばいいんですよ(笑)。

明石:そうするといいモノができる。

金子:私が言うと手抜きの勧めみたいになっちゃってダメなんですけど。儲けてなんぼだなと、会社やるならね(笑)。

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