Windows Server 2012のすべてを知ろう! 第3回
RCから3ヶ月ではソリューションのシナリオが間に合わない!
Windows Server 2012の発売は早すぎる?
2012年07月27日 06時00分更新
製品スケジュールのこと
Windows 8/Windows Server 2012の開発が順調に進んでおり、8月第1週には完成するという。Windows Server 2012は9月に一般販売、Windows 8は10月26日に発売することも決まった。Windows 8の方が遅いのはプリインストールして発売されるPCの問題だろう。9月ではPC各社の秋モデルが登場していない。
開発が順調に進んでいるのはよいことだが、正直いって少々焦っている人も多いのではないだろうか。実は筆者もその1人である。
「コンピュータを買う人は、コンピュータが欲しいわけではない」という言葉がある。顧客はコンピュータが欲しいのではなく、ビジネスをサポートしてくれるツールが欲しい。本当に大事なのはビジネスであり、ビジネスを支えるアプリケーションは二の次である。アプリケーションさえ動作すれば、OSやハードウェアなどはどうでもよいという意味だ。
しかし、OSの機能が強化されればアプリケーションの機能も強化されるし、OSが安定すればアプリケーションも安定する。だから、いわゆる「ソリューションプロバイダ」は、顧客のビジネスをサポートするために、以下のようなシナリオを考える。
- 顧客の困っていることは何か
- それを解決するにはどんな方法(ソリューション)があるか
- そのソリューションを提供するにはどんなサービスやアプリケーションが必要か
- そのアプリケーションを支えるにはどんなOSが必要か
- そのOSを安定して動作させるにはどんなサーバーが必要か
新しいOSの出番は4つ目のステップなので、顧客の課題であるステップ1とのギャップを埋めなければならない。
そこで、各社はOSがベータ版の時点から評価を進め、どの機能がどのようなソリューションを実現するのかというシナリオを描き、そのためのサービスやアプリケーションを作り、顧客に提案する。
マイクロソフト自身が提案するソリューションが、市場に受け入れられるとは限らない。たとえばWindows 2000が登場したときの最大の機能「Active Directory」の初期の提案は失敗だったといってもよいだろう。
マイクロソフトは、「4万人を超える大規模環境をサポート」「より安全な業界標準プロトコルを採用」といったアピールをした。筆者もそれを受け、「Windows NT Intranet Solutions」というイベント(1997年)で、「Active Directoryの目的」として以下の5つを挙げた(図1・2)。
- スケーラビリティと性能の向上
- 互換性の維持
- 相互運用性の強化 (Internet対応)
- 認証機能の強化
- 単純なシステム管理
しかし、4万アカウント以上必要とする企業は限られているし、セキュリティはファイアウォールで維持するのが当時の常識だったし、業界標準といってもLinuxシステムがWindowsと同じようにつながるわけではない。Windows NTを使っていた顧客は、すでにWindows NTドメインを使っており、特に困っているようすもなかった。「認証基盤」というのは、ソリューションとしては失敗だったわけだ。
状況が変わったのは、2003年頃にWindowsに対する大規模なセキュリティ侵害が頻発してからだ。Active Directoryと一体となったグループポリシーが、企業のセキュリティを維持するのに非常に便利だということがわかり、Active Directoryは一気に普及が進んだ。別にActive Directoryを使いたいわけではないが、グループポリシーを使うにはActive Directoryを入れざるを得ない。これがソリューションの成功例だ。
話をWindows Server 2012に戻そう。Windows Server 2012には多くの新機能が含まれる(今後、順次紹介していきたいと考えている)。世間的にはHyper-Vの拡張機能がもっとも注目されているが、ファイルサーバーのような基本的な機能にも拡張が加えられている。また、以前紹介した「集約型アクセスポリシー(Central Access Policy)」のように、見ただけではどうやって使ってよいのかわからない機能もある(ACLから20年!Windows Server 8で追加の新アクセス制御とは?)。
ソリューションプロバイダーは、新しく登場するWindows Server 2012の機能を見極め、その機能をどう組み合わせれば、何ができるのかを明らかにして顧客に提示する必要がある。マイクロソフトは機能一覧を提供し、ソリューションのヒントを与えてくれるが、完全なソリューションを提案することは少ない。マイクロソフトはWindowsを顧客に直接販売しないし、ビジネスをサポートすることもない。個々の顧客の課題をとらえてはいないからだ(もちろん製品のサポートはあるし、市場全体の課題はとらえている)。
だから、ソリューションプロバイダーはいち早くWindowsの新機能を試し、どんなソリューションを提供できるのかを考える必要がある。一部の企業はベータ版の時点から評価を初めており、すでにソリューションのシナリオを描いている。しかし、多くの企業はRC版になってから評価を開始しており、まだまだソリューション開発には至っていないという。
従来だと、RCが登場してから製品が登場するまで4カ月くらいかかっていたし、RTMから一般販売するまでも2カ月くらいかかっていた。ところがWindows Server 2012は、RCからRTMまでが2カ月、RTMから製品発売までが1カ月という短さだ。単純に、倍の速度で仕事をしなければならないわけだが、そう簡単に仕事のペースは上げられない。
焦っている理由はこういうことだ。
筆者紹介:横山哲也(よこやま てつや)
グローバルナレッジネットワーク株式会社 マイクロソフト認定トレーナ/マイクロソフトMVP。1994年からSEおよびプログラマ向けにWindows Serverの教育を担当。1996年、グローバルナレッジネットワーク設立とともに同社に移籍。2003年より「マイクロソフトMVP(Directory Services)」、2012年より「マイクロソフトMVP(Virtual Machines)」

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