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もしもツンデレ女子高生がBDを使うことになったら 第2回

機械オンチの女子高生が、写真のアーカイブに挑戦!

ツンデレ少女、BDに出会う【後編】

2012年07月27日 11時00分更新

文● 藤春都 イラスト●布袋あずき

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登場人物紹介

田中葵

頭脳明晰、才色兼備の優等生。クラス委員を務める。同級生の赤司を一方的にライバル視している。がんばり屋だが、意地っ張りな性格。

赤司

葵の同級生で、成績は学年1位。女子生徒に人気がある。口調は丁寧で紳士的だが、少々世間とズレている面も。デジタル全般に強い。葵と同じくクラス委員。

~前回のあらすじ~

成績優秀な優等生の葵。彼女は同じく成績優秀で、いつも自分の上をいく赤司のことを一方的にライバル視していた。

クラス委員である葵は、文化祭の準備に追われていた。そんな中、大量の写真とビデオテープのデータ化を引き受けてしまう。しかし、一見完璧に見える彼女には、実は意外な欠点があって――?

いざ、写真の取り込みを開始! のはずが……

 そして私は途方に暮れていた。

「写真とビデオを取り込む……って、どうやるの?」

 会長の指示通り、生徒会室の隣の部屋に段ボールがどんと三箱積まれていた。開けるなりぶわっと埃の臭いがして、中を見ると古いアルバムやビデオテープがぎっしり入っている。

 幸いカビてはいないみたいだけど、よく今になって出てきたわねこんなもの。

 これは年代順に整理するだけでもけっこう時間がかかりそうね。

 パソコンに取り込むっていうことはつまり、

「パソコンのここに平べったい穴が空いてる。ここに写真入れるのかな……」

「そこはディスク用のスロットです。埃だらけの紙を差し込んだら壊れますよ」

「赤司!?」

 会議が終わるなり帰ったんじゃなかったの?

 奴は準備室の壁にもたれかかって腕組みし、私を見つめていた。奴だとそんな格好でも絵になるのよね……というか、いかにも「私をバカにしてます」ってポーズじゃないの。 「で、何しに来たのよあんた」

「いえ、作業をしくじった葵さんが全身ビデオテープでぐるぐる巻きになっていたり画像処理の残り時間表示を見て絶望していたら面白いかなと」

「帰れ!」

 私は腹の底から叫んだ。

「邪魔しないでよ、私はこれから写真を取り込まないといけないんだから」

「でもそこのスキャナ、電源も入ってないですよ」

 しかし赤司は帰ろうともせず、パソコンの隣の四角い機械を指さした。ははあ、スキャナ君とおっしゃるのね君は。

 私はしばらくスキャナを矯めつ眇めつし、電源ボタンを探した。たぶん「切」「入」って書いてあるところよね。

 ……ややあって、赤司は「ON」「OFF」と書かれたスイッチをかちっと押した。なんで日本語表記じゃないのよここは日本よ。

「もしかして葵さん、……機械が苦手なんですか?」

「そんなわけないでしょ!」

 赤司がにやにやと笑うのに私はまたもや怒鳴って反論した。

 うちの高校でもコンピュータの授業はあるけど、図書館にある解説本をあらかじめ頭に入れておけば引っかかることなんてない。私だって学年二位なんだから、そう、機械の操作が苦手なんてあってはならないのよ。

「それはただの丸暗記であって、操作できているとは言い難いです」

「うるさいわね! うちにだってビデオやカメラくらいあるし、機械だって使えるわよ!」

 私は段ボールの中から古いビデオテープを鷲掴みにして取り出した。

「VHSですか。その古びた映像もなかなか味はありますけど」

「古いって何よ、今でもちゃんと使えるじゃない」

「だって今はDVDかBD、それにHDDが主流でしょう」

「DV……ドメスティックバイオレンス? そんなものが主流だなんて、あんたどんな修羅の家の生まれなのよ」

「ちなみにBDは何だと思われます?」

「bande dessine(バンド・デシネ)」

「……いい発音のフランス語でありがとうございます」

 赤司はちょっと呆れた風だったが私はえへんと胸を張った。

「家でテレビは見ないんですか?」

「失礼ね、テレビくらい観るわよ! ……まあ去年いきなり壊れたから、その後はビデオ観るのにしか使ってないけど」

「もしかして、去年の七月ですか?」

「そういえばそうだったわね。お昼にいきなりぶちっと画面が消えてびっくりしたんだったわ。それまで普通に使えてたのに」

「それはたぶん、アナログ放送が終了……」

 赤司はなにやら訳の分からないことを呟いていた。

「どれだけ機械に疎いんですか……」

「あんた、私が万年二位の上に貧乏だと思ってバカにしたわね!? 最近だって洗濯機が一槽になったのよ! 洗濯と脱水が同じタンクでできるなんてすごいでしょ!?」

「……だいぶ昔の最新型ではありますね」

「とにかく、葵さんがやり方もわからないのに安請け合いしたのがよくわかりました」

「悪かったわね!」

 こいつが呆れたようにため息をつくのがすごい腹立つ!

「会長の説明がさっぱりわかっていなかったらしい葵さんに改めて説明しますと、葵さんの任務はそこの段ボールの中身をこのディスク一枚におさめることです」

「あんたバカ? そんなことできるわけないじゃない。物理法則無視するんじゃないわよ」

 赤司の手にしたきらきら光る円盤を見て、私はふんと鼻で笑う。

 赤司はため息をついて、

「……葵さん一人じゃ、一年経っても終わりませんね」

「だって、会長たちが困ってると思ったから……」

 ええ、ちょっとは私もわかってるのよ。この仕事は苦手なパソコンを使わなければ終わらないって。でも引き受けたときはこんなバイオレンスな円盤が飛び交う任務だとは思わなかったし。

「ですから僕も……」

「悪かったわね、でも口出ししないでよ! どうで不動の学年首席様は何でもできるんでしょうよ、でもこれは私が引き受けた仕事なの、わかったらとっとと帰って!」

「……僕は」

「だいたいあんたは……」

 そこで頭がくらっとした。

 頭に血が上って怒鳴りすぎたのかな。でもこのくらい怒鳴って当然だと思う。赤司が声をかけてきたとき、手伝ってくれるのかと思ってちょっと期待したのよ。でも実際はただ嫌味を垂れ流してくるだけだったし!

 ……そういえば、ここ数日は文化祭の準備とバイトが続いて眠かったんだっけ。でもここで眠ったら……

「ちょっと!?」

 珍しく赤司の慌てたような声を聞きながら、私の意識は途切れた。





***





 翌日の朝、私は朝ご飯も食べずに学校に向かってひた走っていた。

 昨日は結局寝ている間に自宅まで運ばれたようで、目が覚めたらベッドの上だった。なにしろ仕事を途中で投げ出して帰ってしまったんだ。今日急いでやらないと間に合わない。

 ばたばたと生徒会準備室に駆け込む。ああ、昨日のままの埃っぽい段ボールの山が……

「……あれ?」

 なかった。

 狭い部屋はがらんとして、床に一枚だけ円盤が置かれていた。あれは確か、赤司が「これ一枚に」とかよくわからないことを言っていたやつだ。

 私が呆然としているところに折良く(悪く?)生徒会長が入ってきた。

「田中さん、これ、やってくれたの?」

「……ええと、あの」

「助かったよ、ありがとう、ありがとう!」

 会長はいちおうパソコンにディスクを差し込んでチェックし、「よしっ」と呟いてから、私への礼をしながら走り去ってしまった。

「……できてたの?」

 どうやらそういうことらしい。

 夜中にこの学校に小人さんがやってきたのでもなければ、考えられることはひとつだけだ。正直、ちょっと……いや、すごーく腹の立つ結論ではあるんだけど。

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