再エネの「固定価格買取制度」がスタート
今こそエネルギーのあり方を真剣に考えよう
2012年07月25日 09時00分更新
注目される新エネとは何か?
新エネルギーというのは、「実用化段階に達しつつあるが経済的制約から普及が十分でなく、石油代替エネルギーの普及に必要なもの」というのが日本での定義です。本書では、新エネルギーとして定義されている「太陽光発電」「風力発電」などに加え、これから注目される「地熱発電」「太陽熱発電」「バイオマス利用」などについても解説しています。
例えば、本書をお読みいただければ、日本の地熱発電や小水力発電はポテンシャルを秘めていることがわかっていただけると思います。地熱発電の設備は、腐食性の高い熱水や高温蒸気といった過酷な条件下にさらされますが、その心臓部とも言える蒸気タービンの供給量で日本企業の世界シェアが7割近いことは、あまり知られていないのではないでしょうか。
物江が担当した太陽熱発電の項では、欧州の民間企業が中心となって推進している「デザーテック」構想を取り上げました。この構想はサハラ砂漠に太陽熱発電システムを設置し、欧州まで送電するというダイナミックな取り組みです。こうした国内外の事例を紹介し、新エネルギーの可能性を感じ取っていただきたいと思っています。
とはいえ、地熱や太陽熱をはじめ新エネルギーには大規模な設備投資が必要であることや、自然環境や地域との共存などクリアすべき課題が多いことも事実です。物江が担当した太陽光発電の項では、海外での太陽光発電の政策支援と普及の関係、普及に伴って中国企業の存在感が増したことなど、日本の制度設計の参考になるであろう事例も紹介しています。本書では新エネルギーの長所だけでなく、普及するために必要なことは何か、についても説明しています。
電力を選ぶということには一人ひとりの責任も伴う
2012年7月1日には、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(再生可能エネルギー特別措置法)が施行されました。これは、太陽光、風力、地熱など再生可能エネルギーで発電された電気を一定期間、一定の価格で電気事業者(電力会社)が買い取ることを義務付けるものです。これにより、多くの企業に電力事業への参入チャンスが生まれ、新エネルギーの普及に弾みが付くと期待されています。
電力やエネルギーに対する考え方は、震災前と後では大きく変化しています。自由に電力を選べる社会になることは理想ですが、自由には責任も伴います。責任を持って判断するには、情報が必要ですが、これまでの我々は知らされず、知ろうともしていませんでした。しかし徐々にではありますが、これまで政府や電力会社だけしか持っていなかった情報を私たちが知る機会も増えています。
本書は、比較的若い世代のビジネスパーソンが読者の中心になると思いますが、環境問題に関心のある方や学生など、幅広い読者にとって役立つ本でもあると考えています。電力やエネルギーの問題は国民全てに関わる問題だけに、一人でも多くの方に本書を手に取っていただき、新エネルギーについて知ったり、考えたりするための一助としていただければ幸いです。
小黒由貴子(おぐろ・ゆきこ)
1984年大和コンピュータサービス(現大和総研)入社。基盤システム開発部、情報技術研究所などを経て、2010年より現職。担当はグリーンIT、環境情報開示など。
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