7月13日、イデアホーム(益田建設)が東京都立川市の住宅展示場に建設したモデルハウスの内覧会が開催された。この住宅では、最近の電力事情も踏まえた最新の省エネルギー技術がふんだんに盛り込まれており、電力量や温度・湿度といった環境情報の見える化と制御には富士ソフトと日本マイクロソフトの連携によるソリューションが採用されている。
FSGreen EMSの試みとは?
富士ソフトと日本マイクロソフトは4月17日付で「環境情報見える化ソリューション『FSGreen EMS』」の提供開始を発表している。「クラウドや組込み技術の活用により、電力量・温度・湿度・CO2排出量などを場所や機器を選ばずに可視化」すると謳われるソリューションで、プラットフォームにはマイクロソフトの小型機器向け開発・実行環境である「.NET Micro Framework」や組込機器向けOS「Windows Embedded」、クラウドプラットフォーム「Windows Azure Platform」が使われ、富士ソフトの環境情報見える化/制御のためのアプリケーションソフトウェアと組み合わせ、サービス化している。
イデアホームでは、オリジナルのホームエネルギーマネージメントシステム「I-HEMS」でFSGreen EMSを利用しており、住宅内の環境情報の可視化に加え、クラウドプラットフォームの強みを活かしたリモートコントロール機能なども実装している。スマートフォンやタブレット端末を使い、屋内/外出先を問わず空調のオンオフや温度設定などが可能だ。たとえば、外出先から帰宅するときに空調をオンにすることで、帰宅時に快適な室温設定になっているようにする、といった使い方が可能だ。
ただ、住宅でのITの活用、という視点で見ると、エアコン等のリモートコントロールなどはある意味極めて基本的なアプリケーションであり、さまざまな形ですでに実用化されていることもあって、それ自体はさほど目新しいものではない。たとえば、TRONプロジェクトで実験的に建設された「TRON電脳住宅」は1989年末に完成しており、20年以上昔の話となっている。もちろん、当時はクラウドを前提としたアプリケーション環境はなかったし、コストの面では比較にもならない。現在のI-HEMSは、その気になれば個人宅で導入し、実用システムとして使える完成度と、住宅新築時の追加コストとして十分許容範囲に収まる金額で使えるわけで、この20年何の進歩もなかったわけではない。しかしながら、空調の遠隔操作などは機能としてさほど新鮮みが感じられないのも確かで、これはITを活用して住宅内で何か有用なことを使用と思ってもあまり思いつく用途がないということの反映なのだろうと思ってしまうのも確かだ。
エコ住宅の最新技術
実は、イデアホームが立川に建設したモデルルーム「イデアホームCoCoLo」は、“low CO2 style house”と銘打たれており、I-HEMSはその機能の一部に過ぎない。もっとも目を惹くのは風力発電用の風車だ。直径3.5mで、高さは13.5mある。
ベースとなっているのは九州大学流体科学研究室で開発された「風レンズ風車」で、風車の周囲を取り囲むように設置された“風レンズ”の働きによって、いわば周囲の風が風車内に集められる形になる。この効果で風車を回す風速は周囲の風速の1.4倍程度にまで増速され、風力発電量は風速の3乗に比例するということで出力は約3倍に向上するという。屋根には当然のように太陽光発電パネルも設置され、現時点で現実的に利用可能な自然エネルギー発電設備の展示場のような状況になっている。
さらに、こうして発電された電力を蓄積するために、イデアホーム専用蓄電システムも用意された。こちらは、5kWhのリチウムリン酸バッテリーで、IT業界的には「大きなUPS」といったところだ。ただし、家庭内の家電製品への電力供給を想定した出力品質の向上が図られているのだという。モデルルームでは階段スペース下の納戸に置かれていたが、日常的なメンテナンスの必要があるわけではないので、実際にはこれほどアクセスしやすい場所に設置する必要はないようだ。
このバッテリーを活用することによって自然エネルギー発電の成果を活用して商用電源の利用量を削減できるほか、「イデアおんどる」とよばれるシステムでヒートポンプを活用した蓄熱・蓄冷ができるなど、商用電力の使用量を削減するための工夫が多重的に組み合わされている。基本的なことでは、屋根や基礎にまで及ぶ建物自体の断熱や高機能空気循環システムの導入など、基本となる建築技術があった上でこうした最新設備が活きている形だ。
ITという視点からは、クラウドの活用というくらいしか目新しい点はないとも言えるが、逆に言えば従来はITだけで閉じていたのが、住宅建設のような分野にもごく当たり前のようにITが組み込まれるようになってきたとも言え、“ITのコモディティ化”の1つの側面でもあると言えそうだ。