急速に広がりを見せるCortex-Mシリーズ
2009年頃になると、地道な努力が実を結んだか、Cortex-Mシリーズの市場における存在感は、かなり大きなものになってきた。Cortex-M3を採用して自社製品を用意したベンダーは少なくとも20社を超えており、各社は差別化のために、周辺回路や省電力機構などにいろいろ工夫を凝らすようになってきた。この状況に合わせて2010年2月にARMが投入したのが、「Cortex-M4」である。
Cortex-M4はCortex-M3にDSP演算ユニットを組み合わせることで、さらに性能を引き上げたもの。それまでARMのMCUコアを頑なに拒んでいたフリースケール・セミコンダクタは、Cortex-M4コアを採用した「Kinetis」シリーズのMCUを投入し、以後急速にラインナップを増やしていく。
Cortex-Mシリーズは登場当初こそもたついたものの、一度普及に弾みがつくと、開発環境やライブラリ、ミドルウェアなどは急激に充実する。例えばライブラリを提供するベンダーからすれば、ルネサスエレクトロニクスのMCU向けにライブラリを作っても、売れる相手はルネサスエレクトロニクスのMCUを使っている顧客だけである。ところがCortex-Mシリーズ向けにライブラリを作れば、STMicro、フリースケール、NXP、テキサス・インスツルメンツ等々と、多くのベンダーのMCU全部で使えることになる。どちらが市場が大きいかといえば当然後者であり、その結果富士通とか東芝などもCortex-MベースのMCUを投入するようになってきた。
MCUラインナップの最新製品が、2012年3月に発表された「Cortex-M0+」である。Cortex-M0をさらに省電力化・小型化すべく内部の見直しを図ったもので、命令セットはCortex-M0と同じながら、パイプライン段数は2段まで減り、その分レイテンシや消費電力を削減できたとしている。
Cortex-M0+の回路規模は明確に示されていない(Cortex-M0より少ないとだけ伝わる)が、そろそろ16bit MCUと互角に近い規模まで来ている。8/16bit MCUといった、これまでARMが参入できなかった分野向けに切り込みをかけるべく用意されたモデルであり、早速フリースケールとNXPはこのライセンスを受けている。フリースケールは先日アメリカにて、Cortex-M0+ベースの「Kinetis L」のデモを披露し、8/16bit MCUよりも低消費電力であると発表している。この2社に続いて、今後も多くのベンダーが従来8/16bitが占めていた市場に、このコアをベースとした製品を投入するものと思われる。
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