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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第27回

「ラストエグザイル‐銀翼のファム‐」千明孝一監督が語る、制作現場の壮絶な戦い

「GONZOブランド」を背負って立つアニメ監督の決意【前編】

2012年07月08日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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チームの一体感、「野球」で取りもどせ

―― なぜ、そうしたことが起こるのでしょうか?

千明 会社とフリーランスの方との関係のあり方に問題があると僕は思っています。スタジオは、作品を作る際にはフリーランスの方にも机をお貸しするのですが、そのとき会社としての運営方針を示さず、「いつか仕事を頼めればいいから」くらいの感じで机を貸してしまうことが多いんですね。

 本来なら、スタジオの財産であるスペースを貸して、鉛筆などの消耗品を支給している以上、そこから自社の〝売り上げ〟――アニメーション制作的に言うなら自社作品の原画などが――安定して継続的に生み出されなければいけないはずなんです。

 でも、会社として明確な規則を作っていないために、フリーランスの人にも少し甘えの気持ちが出て、他社作品を優先してしまったりする。会社も、たとえば年間を通じて最低限これだけはやってくださいという社内の仕事量を金額で提示し、それに満たないスタッフには机を空けてもらうとか、そのくらい具体的なルールを提示してくれたら、現状が変わるのかもしれません。

(C)2011 GONZO / ファムパートナーズ


―― 「会社」と「仕事を請ける側」の関係作りがまず重要と言うことですね。

千明 そうです。相手の方がフリーランスであれ社内であれ、人との関係を築くことが大事だと思うんです。アニメーションは大勢の人がつながって初めて作れるモノですから。アニメの現場で特に、人との関係をつなぐことができるポジションというと、アニメ作りの進行役であり、アニメーターさんとの連絡を取る「制作」さんですね。

 制作さんが、アニメーターさんにまめに連絡するだけでも、関係は良くなります。「最近どうですか」「体調崩されたと聞きましたが、その後いかがですか」とか、仕事でもそれ以外のことでもどんなことでもいいから、声をかけたり電話をしたりすると、それだけでもコミュニケーションが取れたりします。そうやって関係をつないでいけば、相手も「ああ、もう3回仕事を断ってる。いつも連絡をくれる人だし、次は断れないな。なんとかスケジュールを空けておこう」となりますよね。

 でも残念ですが、制作の若い子のほとんどはそういうことが苦手みたいで、あまりやりたがらない。人と人との関係をつないだり、「ファム」のチームとしての一体感をどう作っていくかが、僕の一番の課題になりました。


―― 千明監督はどのように“チームとしての一体感”を作っていこうと思いましたか。

千明 いろいろやりました。一緒にお酒を飲むとか。スタジオの飲み会は「ファム」が始まる前に何度かやって、ふだんあまり話す機会のないスタッフの交流の場になっていました。飲み会もそれなりにスタジオの雰囲気作りに効果があったんですが、現場の状況が厳しくなってからは、飲む機会も減ってしまいました。そうした中で、スタッフ間のコミュニケーションに貢献してくれたのが「野球部」でした。

―― 「野球部」ですか?

千明 はい。アニメの制作現場には野球部があるところもあって、「アニメリーグ」という形で草野球もしているんです。僕は子どもの頃から野球が好きで、小、中、高校の途中まで、その後はアニメリーグを続けているんですが、野球って、アニメーションのワークと似ていると思っているんです。

(C)2011 GONZO / ファムパートナーズ

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