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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第27回

「ラストエグザイル‐銀翼のファム‐」千明孝一監督が語る、制作現場の壮絶な戦い

「GONZOブランド」を背負って立つアニメ監督の決意【前編】

2012年07月08日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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現場を掛け持ちするフリーランスとの温度差に悩まされる

―― 当時のGONZOはどんな様子でしたか。

千明 フルデジタルの現場は驚くような最新の技術がいっぱいで、社内のデジタルスタッフはみんな若く、向上心でいっぱいでした。このときは、前田監督や村田蓮璽さん、本田雄さんといった一流のクリエイターの方々が、GONZOの社内スタッフとして大勢詰めていて、スタジオ全体が活気に満ちていました。

 こうしたスタッフと仕事をできたことが、僕の演出としての自分を成長させてくれたと思っています。前田監督の「青の6号」や、大倉雅彦監督の「戦闘妖精雪風」などで貯えられたデジタル映像技術を、惜しみなく使用させていただいた幸運なテレビシリーズが、「ファム」の前作にあたる「LAST EXILE」でした。


―― 前作「LAST EXILE」から、今作「ファム」に移行するときに、どんなことが問題となったのですか。

千明 あれから8年が経過して、「青の6号」のときにぼくが目標にしていた人たちは、みんなスタジオを去っていきました。そればかりではなく、若くて向上心いっぱいだったGONZOデジタル班は別会社になってしまうなど、状況は一変していました。そんな“今のGONZO”でも、「LAST EXILE」と同じレベルのものが作れると証明して、次の作品につなげていくことが必要だったんです。

(C)2011 GONZO / ファムパートナーズ


―― 「ファム」は、単純に「『LAST EXILE』の続編を作る」ということが目的ではなくて、GONZOという会社のブランド力を維持する、いわば社の命運をかけた作品を作ることになったわけですね。

千明 はい、僕はそういう気構えで取り組みましたし、スタジオのトップの方々も同意してくれていました。


―― 取り組んだ結果はいかがでしたか?

千明 結果を言うと、やはりハードルは高かったです。会社の中に人材がそろっていた当時と違って、クリエイターを外から呼んでこなければいけなくなったんですけれども、今の会社の体制では、実力のあるクリエイターさんたちを引きつけるだけの魅力、つまり“良い待遇”が提示できなかった。

 あとは、作画スタッフを集めることが難しいんです。作画は常に人手が足りないから、安定して作画をしてもらうには、社内で作画スタッフを抱えることがベストなんですが……社内制作作品がいくつもあるのであれば、常時何らかの自社作品にたずさわってもらう社内スタッフとして抱えることができるんですが、現在は、作品数を絞っているためにそれも難しい。社内全体を「ファム」だけのために動いてもらうような体制にはできないんですね。


―― 前作と同じクオリティーで作るには、時間や予算やスタッフなど、いろいろのものが足りないと実感されたのですね。

千明 はい。ほとんどのアニメーターさんたちがフリーランスで、社内スタッフにはできないとなると、皆さん、他社の作品を掛け持ちでやりながらということになります。こちらの作品が納期に間に合わない状況だとしても、ほかの作品をやっているアニメーターさんに対して、こちらの作品を先にやってほしいというお願いができないわけです。実際に、「ファム」の重要なシーンをお願いした方にも、別の作品を優先されて断られてしまったことがありました。

(C)2011 GONZO / ファムパートナーズ

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