小型なのにしっかりした音が出る「トライポート」技術
ボーズのヘッドホンの基本的な技術である「トライポート」。これは、低音を増強するためのポート技術で、その名のとおり3つのポートで構成されている。小型なのに大型スピーカーのような低音が出る。これはボーズのスピーカーの特徴のひとつだが、ヘッドホンでもそれは同じだ。
硲:「ボーズとしては、ヘッドホンに対する特別な意識はなく、ヘッドホンもスピーカーのひとつだと考えています。低音再生の能力が高いのは、確かに弊社の製品の特徴ではありますが、それが目的ではありません。生演奏と同じ音の再現を求めて、低音から高音までバランスの良い再現をすることが目的です」
そして、トライポート技術は、低音を増強するだけでなく、ハウジング内の空気圧をコントロールする働きなどもある。これらによって、ゆとりのある低音を生み出している。
トライポートは、クワイアットコンフォートなどのオーバーヘッド型だけでなく、カナル型の「IE2」(実売価格1万3000円前後)でも採用されている。よく見ると確かに3つの穴(ポート)があるのが確認できる。
硲:「スピーカーの“アクースティマス理論”(管共鳴を利用して低音を増強する技術)も含め、ボーズでは基本的に物理的な構造で音を作り上げます。ヘッドホンは小さいので、より苦労も多いです」
では、ボーズではどのように音を作り上げていくのだろうか。いわゆるオーディオ機器メーカーには、音作りのためのマイスターが存在することが多い。だが、ボーズにはそういった責任者はいないという。そのモデルに関わるエンジニアがトータルでバランスの良さなどを試聴し、製品に仕上げているという。
硲:「音決めのためにボーズが目指す音の指標はありますが、それはスペックや数値などではありません。音はあくまでもエンジニアの感性で仕上げていきます。技術的な成果と、ユーザーのベネフィットを検討し、ユーザーに利益となるものであれば、製品化となります」
強いていうならば、ボーズの目指す音とは、生演奏の音と同じように聴こえるということなのだろう。そして、実はボーズ本社には、マーケティングなどを行なう部門はないという。ユーザーの声は製品に反映するが、ユーザーのニーズに合わせて商品が企画されるのではなく、あくまでも製品は研究の成果であるというスタンスだ。
これはちょっと意外な事実だろう。それだけに、研究費や開発費が製品の価格に乗ってくるわけで、ボーズの製品が他社のものに対してやや割高であるのは、こういったことも理由だったのだ。
硲:「ボーズでは製品の詳しいスペックを公表していません。これは、数値や特性が優れているからではなく、音を聴いて気に入ったら選んでほしいというメッセージでもあります。そのため、直営店のほか販売店の方々に協力してもらい、販売コーナーなどもなるべく多く用意してもらっています」
ボーズの音は決して高解像度というわけでもなく、バランスがいいというか、まとまりのよさが大きな特徴と感じている。それでいて個性という点では、まさにボーズの音と言っていい主張のある音で、音楽を楽しく鳴らしてくれるところが魅力だ。
こうした音がさまざまな分野の研究開発の成果として生み出されているといったことにもちょっと驚かされた。国内メーカーとも、そのほかの海外メーカーとも違う、ボーズ独特の個性はこうして生まれていたとわかると、その人気の高さの理由もわかるような気がする。
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