向上したのはメモリー容量だけ?
NeoMagic MagicMedia 256
NeoMagicという会社は1993年に創業されたファブレス企業で、ノート向けのグラフィックに特化した製品を出していた。同社の製品の特徴は積極的にeDRAM(組み込みDRAM)を使ったことで、最初の製品である「MagicGraph 128」シリーズは最大2MBのビデオメモリーをeDRAMで構成していた。この方式なら外部にビデオメモリー用DRAMを増設する必要がなく、しかもeDRAMは高速にアクセスができるので、UMA方式に比べると圧倒的に高速で、消費電力も低く抑えられた。
この利点は特にノートPCで非常に有用であり、多くのノートPCがこのMagicGraph 128シリーズを採用していた。筆者が大昔に使っていた「Let'snote S21」にも、このMagicGraph 128シリーズが搭載されていたのがちょっと懐かしい。このMagicGraph 128シリーズは、DirectXへの対応はもちろん一切なかった。当時はまだノート上でのDirectXの動作などはほとんど求められていなかったから、それでも問題はなかった。
これに続いて、NeoMagicが1998年に投入したのが、「MagicMedia 256」シリーズである。名前の数字は倍増したものの、実のところ内部はMagicGraph 128と同様の128bitグラフィックエンジンのままで、DirectXへの対応も見送られたままだった。大きな改良点はeDRAMの容量で、2.5MBから最大6MBまでのラインナップが用意されていた。背景にあるのはノートPCの液晶画面サイズの拡大と、「同時表示色数を増やしたい」という要求に応えるには2MBのeDRAMでは追いつかないことだった。しかし、メモリーを増やすだけではいくらなんでも能がないと思ったのか、AC97互換のAudio Codecを内蔵するという、やや斜め上の製品となった。
MagicGraph 128シリーズを採用したベンダーは、引き続きMagicMedia 256シリーズを採用するパターンが多かった。だが、なにしろ性能面での改善があまりなく、そのうえDirectXへの対応も皆無というあたりも、この頃からはマイナス要因になってきていた。またMagicGraph 128シリーズの頃から言えることだが、NeoMagicのグラフィックスドライバーの質は、いいとは言いがたかった。
当時はATI TechnologiesやS3などのベンダーも、ノート向けのグラフィックチップを投入し始めていたので、NeoMagicの立場は苦しいものになってきた。というのも、性能改善にはプロセスの微細化が欠かせないが、eDRAMが利用できるプロセスは限られるため、簡単に微細化ができなかったためだ。また、解像度の拡大や色数の増加、オフスクリーンバッファの要求といった当時のニーズを満たそうとすると、そろそろeDRAMだけではダイサイズ的に無理があった。ところが外部にSDRAMなどを接続すると、折角の同社製品のメリットを殺してしまう。
結局NeoMagicは、2000年にPC向けグラフィックの市場から撤退、ARMベースのコアに自社のグラフィックを組み合わせた、SoCの開発を手がけるようになる。そこで普通の製品開発ですませずに、2003年には「APA」(Associative Processing Array)なる超並列プロセッサーエンジンを組み合わせた「MiMagic 6」を発表したりしたものの、これもぱっとせず。2008年にはNASDAQへの上場が廃止されるといった、苦しい状況が続いている。それでもまだ会社としては存続しているあたりは、大したものだという気もするのだが……。
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