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これだけは知っておきたい 最新テクノロジーキーワード 第12回

「レアアース」モーターからガラスまで PCにも重要な資源

2012年06月27日 12時00分更新

文● 小林哲雄

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蛍光体や研磨剤
以前から幅広く活用されていたレアアース

 磁石の次は「蛍光体」でのレアアース利用を見てみよう。蛍光体にレアアースを加えることは、昔から広く行なわれていた。ある程度の年齢の方ならば、日立が「キドカラー」というブラウン管テレビを売っていたことを、覚えているかもしれない。この名前は蛍光体の輝度改善に、希土類元素を使ったところから来ている。

 現在の白色LEDには、青色LEDと黄色の蛍光体を使っているが、これも黄色の蛍光体にセリウム(Ce)を付加したことで実用化に成功している。ほかにも蛍光体には、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)の酸化物や炭酸塩、リン酸塩が使われている。蛍光体は発光とそのために必要なエネルギー吸収のピークが元素に大きく依存するので、使われる元素の種類が多いのだ。

 一方、ガラスの研磨にはセリウムを含む研磨剤が広く使われている。パソコンでガラスと言ってもピンとこないかもしれないが、液晶パネルやHDDの記録母材にガラスは広く使われている。セリウムはガラスと反応して水和物を作り、化学研磨作用を起こすので都合がいい。

 脱セリウムを目指して、研磨パッドと研磨剤を見直すことでガラス研磨の効率を上げるという研究も行なわれている(関連リンク)。この研究では、セリウムを使う従来の方法と品質は同等で、所要時間が3分の2に減るという極めて良好な結果が得られている。ただし、あくまでまだ評価段階の技術である。

 「熱アシスト技術」の回で説明した、「近接場光」をガラスの研磨に使えないかという研究も行なわれている。シグマ光機の投資家向け資料では、東京大学や徳島大学との共同研究によって、研磨剤を使わずにガラス表面を平坦化する技術を開発していることが書かれている。

ガラス表面の凹凸を近接場光のエネルギーで減らそうという技術。シグマ光機のIR資料より引用

新たなレアアース鉱山の開発は?

 レアアースの価格が高騰し、ほぼ中国一国に供給を依存しているという状況の打破のためには、「新たな鉱山を開発する」というのが妥当な解決策である。しかしこれには長い歳月と投資が必要だ。一般的な鉱山開発の場合、地質調査やボーリング調査などで10年近い歳月と、調査段階だけで数十億円の費用が掛かる。

 また、レアアースの需要が高まったのは近年のことであり、価格の高騰も同様だ。もしかすると近い将来、レアアースを使わない、あるいは別の元素で置換可能になるかもしれない。レアアースは市場規模そのものが小さく、価格変動が大きいという問題もあり、調査対象としては投資しにくいという経済的な問題がある。

 資源の存在が確認されている、今は閉山・廃鉱状態にある鉱山からの、レアアースの再採掘という手もあるが、ここにも問題がある。レアアース鉱山には、「マグマ由来型」と「イオン吸着型」鉱床がある。マグマ由来型は得られた鉱石に放射性元素が含まれるので、処理に費用がかかるという難点がある。得られるレアアースも、軽希土類元素が主体だ。

 レアアースを多く含む花崗岩が風化してできた粘土層からレアアースを取り出すイオン吸着型鉱床は、放射性物質を含まず、重希土類元素が豊富に含まれるメリットがある。ところが廃鉱になった鉱山は基本的にマグマ由来型なので、それにともなう問題があるわけだ。

 レアアースの利用を減らす方向にしろ、レアアース生産を増すにしろ一朝一夕ではできることではない。メーカーや素材研究者の苦闘は当分続きそうだ。

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