「ここはインターネット。バンドの奴らは出てくるな」
── 中学の頃は音楽どっぷりだったんですか?
さつき 実は音楽以外は何もやってなくて、中三ぐらいからほとんど学校に行かずに引きこもってました。平日昼間に、ネットでフリーゲームとか探してね。学校では全然友達もいなかったんですが、2ちゃんねるのDTM板を通じて似たような境遇の連中が20、30人と集まってきて、ユニットを組んだり、自然とオフ会や同人即売会に行くようになりましたね。今、ニコ動で活躍している連中です。
── ニコ動以前からつながりがあった。
さつき そうですね。日々、メッセンジャーで、「お前の推してる曲ゴミだな、俺の方がいいに決まってるだろ」と罵りあって、曲を勧めあってました。今思えば、回線越しですけどずいぶん青春っぽい切磋琢磨だなと。出会ったのが、少ないお金でどうやって機材をそろえるかとかを語る学生向けのスレッドだったので、年齢も1つぐらいしか違わない。それが中三から高一の時期。
彼らにはずいぶん影響を受けました。すごいドープなんですよ。今だと、単音の三角波をバックに「ティューン」とかいうパーカッションが次第にノってくるのを、一人持ち時間2時間でやったりするチップチューンのクラブイベントを開いたり。エピックトランス好きがいたかと思えば、beatmaniaにハマってるヤツもいる。きくお※は現代美術方面だし、LOLI.COM※みたいに「やっぱりJ-POPだぜ」ってスタンスもあって、僕は「電波ソングでしょ」というポジション。
相手の勧める曲を全部聴くので、おたがい劣化版の曲を作れる。「あいつのマネすれば、そのシーンっぽい感じになるんでしょ?」というカンが養われたのは、すごくありがたいことなんです。
※ きくお : 美術家、トラックメーカー。ニコニコ動画ではボーカロイドを使った「僕をそんな目で見ないで」「塵塵呪詛」などで知られる。
※ LOLI.COM : ニコニコ動画のプレイヤー。トラックメイク、リミックス、マッシュアップ、実況、まったく知らない歌を想像で歌う『ミリしら』(1ミリも知らない)シリーズなど、予測不可能のトリックプレイヤー。
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DISCO-ZONE~恋のマイアヒ~ |
── 出会った頃もネタ曲を作っていた?
さつき ですね。2ちゃんねるでムーブメントが次から出てきてたじゃないですか。「ムネオハウス」の少し後ぐらいで、「恋のマイアヒ」とか「騒音おばさん」をがっつりリミックスしていた。ミク曲でも、「お断りします」や「チョコレートは人体に対してこんなにも危険!」は、2ちゃんねるのコピペをそのまま歌詞にしています。
── なぜモチーフが2ちゃんねるなんですか?
さつき 根っからそういうのが楽しいからです。今だといわゆるラブソングとか、バンドっぽい曲を作ってるボカロPはだいぶいますし、ランキングの上位に入ってきてますけど、お前ら出てくんなよと。
── ちょ(笑)。
さつき ここはインターネットで、みんな引きこもってやってるんだぞと。常に言ってますが、アイツら嫌いなんです。ただ、そうしたスタンスを曲で表すのは難しいんですよね。今はTwitterもあるので毒づくのもカンタンですが、曲で僕の色を出すのは今でも課題です。
── ラブソングをベースにネタ曲を作るとかどうですか?
さつき そういう思いを込めたのが、アルバムのタイトルナンバー「人畜無害」で、だけどこんなのネットでしか言えないよっていう(笑)。お互いに罵倒し合っても、それはメッセンジャーでパソコンの前ですからね。すごくシュール。
── ちなみにお名前の由来ってなんですか?
さつき 元は「さつき」だけだったんですけど、「てんこもり」はゲーム(で使うハンドルネーム)で。ネットゲームに加えて、ガンダムなどのアーケードゲームにハマって、一時期だけ外に出ることがあったんです。何より時間があまってるので、延々やってすぐにランキングに乗って、大会にも出るようになった。だんだん「さつきさん」より「てんこもりさん」って呼ばれる方が多くなってきて、両方あると面倒くさいので、じゃあ一緒にしようと(笑)。