このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

これだけは知っておきたい 最新テクノロジーキーワード 第11回

「IMES」建物内のどこにいるかまでわかる位置情報技術

2012年06月20日 12時00分更新

文● 小林哲雄

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

無線LANアクセスポイントを使う方式に
対する利点とは?

 屋内での位置判断を行なう技術には、無線LANアクセスポイント(以下AP)を利用する方法がある。しかしAPは本来ネットワーク利用のために設置するため、干渉の問題を避けようとすると、あまり密集して設置できない。

 例えばショッピングモールでの位置情報利用というシチュエーションを考えてみよう。モールの店舗を個別かつ確実に把握させるためには、店舗ごとにAPを置くのが理想的だ。しかし、「IEEE 802.11ac」の回で説明したように、2.4GHz帯の無線LANは3つ以上のAPがあるとお互いを妨害しかねないので、現実には不可能だ。送信出力を落とせば位置情報の把握には有利だが、ネットワーク接続という無線LAN本来の目的がおろそかになってしまう。5GHz帯は多くのAPが設置できる一方で、まだ利用可能な端末が少ないという問題がある。

 一方、IMESの場合は位置情報を提供するのが目的であり、店舗ごとにIMES送信機を設置しても、電波強度を調整することで影響を減らすことができる。また、利用可能なPRN番号が10あるので、ショッピングモールでも設置前に検討すれば効率的な配置が可能だ。

 Location Business Japan 2012の会場では、リコーが蛍光灯型LEDランプに、IMES送信機を組み込んだソリューションを参考出品していた。IMES送信機を実際に運用する場合、設置や配線をしなければならないという問題があるが、ライトに組み込むことで配線コストはなくなり、目立たないというメリットもある。

リコーが参考展示したLED照明への組込み用のモジュール。ランプモジュールに入れるため配線コストが不要になる

 このように「送信側」のシステムは整ってきているようだ。では「受信側」はどうだろ?

普及すれば安くなる
いかにして普及にはずみをつけるか

 現時点でのIMESの最大の泣き所は、受信側のシステムがないことだ。IMESはGPSと同様の周波数帯と変調・偏波方式を使っているので、ハードウェア的には既存のGPSとほぼ同じと言っていい。とはいえ、冒頭で書いたようにGPSと同様のシステムを使っている「GLONASS」も、ようやくAndroid端末の一部で対応が始まった程度。今のところIMESに対応した携帯端末はない。

 そのため、現在の利用形態としてはアプリケーションを作りやすいAndroidに、IMES対応受信機をBluetoothで接続するという方法を使っている。会場で聞いてみた範囲では、Androidの「疑似ロケーションを許可する」を必要とせず、単なるBluetooth SPPで接続しているようだ。

デモンストレーションで使われていたIMES受信機。Bluetooth接続でペアリングして使う

 無線LANによる位置情報検索は、サーバーとのやり取りさえできればどのスマートフォンでも利用できる。それに対してIMESは、今のところ専用受信機が必要で、普及していないからシステムが高くなるというのが泣き所だ。先のショッピングモールでの運用例を考えた場合、受信機を貸し出すことで利用者側の負担は軽減できるものの、IMES測位がスマートフォンの標準機能になっていない以上、測位を使うアプリをインストールさせるだけでは使えない。Bluetoothのペアリングなど、普通の人が慣れていない操作をさせることになるのは敷居が高い。

 IMESが普及すれば、AndroidのGPS機能を補完するものとして対応が進む可能性はあるものの、そこに至るまで「どうやって普及させるのか?」というのが、現状のIMESの課題だろう。

 Location Business Japan 2012の展示やプレゼンを見る限り、屋内位置情報の活用は「集客手段の一環」として、ショッピングモールや商店街等での利用が模索されているようだ。筆者は、美術館や博物館での自動音声説明システムに使えないかと考える。IMES受信機能を持つ専用端末を来場者に貸し出し、説明を受けたい場所でボタンを押す、あるいはその前に立つと自動で解説が流れるというわけだ。屋外ならGPSを使えるし、屋内ではAPを使った位置情報システムもあるが、IMESを使えばより細かな位置情報の取得が得られるので、立ち位置に応じて説明を変えることもできるだろう。

パネル展示での実証試験例。地域の商店街でのスタンプラリー&ゲームという形を取っている

 IMESのPRN番号は、まだ日本だけの運用に限定されている。IMESが世界に羽ばたく技術として認められるためには、いくつかの成功事例を作り出さなければならないだろう。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン