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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第54回

ロンドン地下鉄がNFCでの乗車券サービスを始められない理由

2012年06月13日 12時00分更新

文● 末岡洋子

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セキュアエレメントをSIMに実装するNFCでは
改札口に殺到する乗客をさばききれない

 では、なぜ5年が経過してもモバイル版のOyster Cardが実現しないのか? Verma氏の答えは「スピード」だ。

 Verma氏らが求めるスピードは1人2秒でゲートを通過すること。40~50の駅で1分に約26人がゲートを通過しており、ピーク時にこのレベルで人をさばく必要があるという。これを可能にするには、カードの読みとり時間が0.5秒を切る必要があるが、「現在のNFCではこのスピードに達しない」と語る。なお、ピーク時の利用者数が集中するシティ・オブ・ロンドンのBank駅では、ゲート1台あたりで1分間に35人以上が通過しているという。

 この処理時間0.5秒という基準。実はトライアルで利用したNokia 6131は満たしていた。ところがその後に仕様が変更し(Verma氏はこれを「端末メーカーと携帯事業者の戦いの末」と述べた)、セキュアエレメントがSIMに格納されることになった(モバイルSuicaではセキュアエレメントをハードウェアで実装している)。

 これにより処理時間が劣化し、現在のNFC搭載の携帯電話では交通機関での利用には不十分だと踏んでいるという。端末側にセキュアエレメントを搭載する「Google Wallet」などについては「検討している」と述べたがそれ以上はコメントしなかった。

 速度以外にも不満はあるようで、アプリケーションの配信を含む全体のユーザーエクスペリエンスが「ハイテク通向け」であり一般の人には利用が難しい点も挙げた。このような話を聞くと、FeliCaベースのSuicaは、現時点では成功例なのだと実感する。

 NFC Forumの設立は2004年、NFCはなかなか普及が進まない。ここでもモバイル業界は、Appleを待つしかないのだろうか。Verma氏の話を聞きながらそんなことを思った。

 ロンドンといえば、オリンピックがあと1ヵ月後に開幕する。SamsungとVISAは最新の「GALAXY S III」にVisaのモバイル決済「payWave」を搭載した端末を公式スマートフォンとして選手に配布し、NFCを利用した決済サービスの利用を促進する。一方のTfLはロンドンに勤務する市民に対し、オリンピック会期中は自宅で仕事をするなど地下鉄の利用を減らすよう呼びかけている。


筆者紹介──末岡洋子


フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている

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