このページの本文へ

前へ 1 2 3 4 5 次へ

Microsoftが若きエンジニアをサポートする理由 第4回

ITで音楽を作り上げたい、nana music文原氏

世界の人々とセッションできる音楽アプリ「nana」

2012年06月27日 19時26分更新

文● タトラエディット、語り●文原 明臣、遠藤 諭、写真●小林 伸

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 この記事は、Microsoft BizSparkの提供でお送りします。 スタートアップ企業には年間最大32万円相当のクラウド環境を無償利用できる特典など、起業家を強力にサポートします! 今すぐ詳細を確認。

いきなりアメリカで起業することも、クラウドな世の中なら充分可能に

遠藤 「音楽に関しては、まだまだ発展のしがいがある。でも日本人はシャイな部分があるので、アメリカを視野に入れているんだ?」

文原 「じつは、nana musicは米国法人なんです」

遠藤 「おおっ、そうなんだ! 著作権や税制上の関係で?」

文原 「どちらかというと、資金調達の面ではシリコンバレーのほうがしやすいので、米国法人にしました。会社はデラウェア州に置いています」

遠藤 「シリコンバレーじゃないんだ」

文原 「はい。デラウェア州だとネットで会社設立できるという理由があるんです。今のスタートアップ企業の多くがデラウェア州に集まっています」

遠藤 「海外に出て行のはいいかもしれないね。僕はタブレットが日本で売れていないことから、国内の状況に危機感を覚えているのよ。どれくらい売れていないかというと、2011年に世界で6500万台を超えるタブレット端末が市場に出ているのに対して日本では200万台程度。ほとんど売れていない。実際に端末のランキングを見てもパッとしない。2012年は1億2000万台を超えると言われていて、するといよいよアップルは怪物になるんだよ。なにしろタブレットの半分はiPadだからね。

 で、じつは1億2000万台という数字は、2001年のパソコンの出荷台数とほぼ同じなの。当時のパソコンくらいの存在感になってくるわけ。そんな中、日本は世界にくらべて普及していない。理由は日本語で使えるアプリが少ないから。おやじがタブレット買ってきても、価値を存分に発揮できないんだよ。これからインパクトの差が開いていくとおもう。それくらいタブレットは重要なんですよ。とはいえ、PCも侮れないですけれどね。去年は3億台以上売れているという実績もあるし。

 文原さんのようにいきなり海外で起業できちゃうのも、クラウドな世の中ならでは、という感じだよね。スマートフォンやタブレット端末が出てきて、ITもだいぶ変わってきたし。iPhoneが出た当初は、5年先を行く電話だ言われていたんだけれど、5年も経つと状況がガラリと変わっている。多くの企業がさまざまな形でクラウドを使ってサービスを展開しているけれど、nana musicで気になっているのは、クラウドをどう使っているか? という部分なんだよ。普通は音楽データのやりとりに使うんだろうけど、具体的にはどう運用しているの?」

文原 「今はWindows Azure™ と、Amazonをハイブリッドで使っています」

遠藤 「ほう。どういう役回りで使っているの?」

文原 「パワーが必要なコンテンツ配信の部分をWindows Azure™ でやっています。Amazonで足りないものをWindows Azure™ で補っているという感じです。このハイブリッド方式はサーバーエンジニアがやり慣れているそうで、運用しやすいほうがいいだろうという理由で採用しています」

遠藤 「複数のサービスをまたぐのって、意外と大変じゃない? アスキー総研でも調査資料をウェブで見られるサービスを作っているんだけれど、メインのエンジンはこのサーバー、グラフは別のサーバー、とやっていると、通信がボトルネックになってしまう。2つのサービスをまたぐ使い方をするのは結構あるらしいね」

文原 「はい。うちの場合はエンジニアがオープンソースでやっていたので、すべてのパーツをひとつのクラウドに任せることができなかったんです。スキルや経験もありますし。でも、どうしてもパワーが欲しいときがある。その点Windows Azure™ は、必要とされるものだけを移して、残りは他のサーバーに残しておく、といった運用・開発面での柔軟さがあるんです。大規模なテストはこれから始めるんですが……」

遠藤 「ブラジルではサービスやらないほうがいいって話がありますよね。たくさんの人たちが一斉にアクセスして負荷が膨大になるという。それでダメになっちゃったサービスもあるとか。ワールドワイドで展開したいという話は聞くけれど、為替レートや物価の違いもあって収益面で苦労しているサービスも多いそうだし。nana musicはどうやって収益を上げようとしているの?」

文原 「収益モデルとしては、高品質の伴奏音源を有料で提供したり、特別なボイスエフェクトを用意する、といったことも行う予定です。たとえば、強制的にピッチ(音程)を合わせるものであったり、声をボーカロイドのようにしてしまったりなど。さらに、パソコン版のウェブサービスを展開する予定ですが、有料で打ち込みの音源や編集のシステムを使えるようにすることも考えています。既存のDTMソフトはとても複雑で、使いこなすにはかなりのスキルが必要です。これをワンタッチでできちゃうようなソフトを月額の料金をいただいて提供できれば、と思っています」

遠藤 「儲かりそうだね。いままで聞いた中では最短で収益がでそうだ。Facebookもはじめはグリーティングカードで稼いでいたともいうし。でも、今だと映像では自動コンテンツ監視が必要になってくるという話もあるけれど、著作権などの配慮が気になる。

 僕が月刊アスキーの編集長やってたときに、現モバイルブック・ジェーピーの本城剛史さんがはじめてネット上に電子書籍を流したのよ。あまり語られることはないけど、これが日本で最初の電子書籍でね。当時、ラインアップにあった平井和正さんの小説で、ある曲の歌詞が出ていた。そのときからJASRACとの絡みがあった。

   アスキーネットやニフティ(インターネット以前のパソコン通信)で書籍を配信するのに、彼は仕事をせずにJASRACとの打ち合わせをしていたんだ。僕は最後に判子を押しただけなんだけど、インターネットが始まるよりも前から、音楽の著作権をネットでどうするか、という議論があったんだよね。その内容については省くけど、ユーザーから著作権料に相当する料金を徴収するのも、考え方の1つにあるのではないかと思う」

文原 「そうですね。(多くの方に使ってもらうことを考えると)ユーザーから徴収するわけにもいかないので、JASRACさんと包括契約を結ぶ形で進めています。月5000円がJASRACとの包括契約料ですが、こちらはnanaが全額負担で、ユーザーへ課金する予定は今後もありません」

遠藤 「今後の目標は?」

文原 「夏にオープンβのリリースを目指してがんばっている最中です。今はクローズドβで、言語は日本語のみなのですが、オープンβではすぐに英語もサポートしたいと思っています。韓国語やラテン語、ヨーロッパ圏の言語などもどんどん対応していくつもりです。音楽の専門学校や幼稚園、ワークショップなどで使えるようなものにしていきたいですね。日本では、有名アーティスト に使っていただいたり、といった展開を考えています。半年後にはアメリカに行ってマーケティングをしながらサービスの拡充を考えていきたいです」

遠藤 「IT企業、たとえばGoogleなんかだと、マーケティングはいらないという考え方をしているじゃない?」

文原 「そうですね。僕らの場合はエンターテインメントを作っているという意識があるので、コンテンツの質を重視したいんです。仮にアーティストに使ってもらうとなれば、ある程度のブランディングが必要ですよね。そのときは拠点をニューヨークにする、といったこともあるかもしれません。音楽のコンテンツの質で見ると、たとえばサンフランシスコよりもニューヨークの方がいいという印象もありますので」

遠藤 「ウェブサービスは、メディアに取り上げられた時点では多くの人たちが反応するけれど、時間が経つとしぼんでしまうものもある。真のユーザーがどれだけ残るのかを考えると、最初の伝達をどうするかってなかなか難しく、それでいてとても重要な問題なんだよね。出し方によって受けるものも、受けないものもある。その中で、本当におもしろいサービスは残っていくだろうけれど、ネットをよくチェックしている人たちよりも、女子大生に受け入れられたほうが残る可能性が高いのかもしれない。これからスタートアップするサービスは、従来とは違う視点でマーケティングに気を遣っていく時代になってきたんだと思う」

文原 明臣(ふみはら あきのり )

1985年10月31日生まれ。26歳。兵庫県神戸市出身。2006年神戸高専機械工学科卒業。学生時代に独学で歌を学び、敬愛するStevie Wonderを目標にシンガー を目指す。卒業後は歌とは遠く離れた別の道を歩むも、音楽への想いは尽きることなく、より良い音楽の在 り方を求めて2011年にnanaを創業。

日本マイクロソフトは、スタートアップ企業の成功を強力に支援します! クラウド環境の提供、開発用ソフトウェアの提供、技術サポートなど、開発時の支援から、スタートアップ企業のサービスを広く紹介するマーケティング支援、さらに有望なスタートアップには、最大で6万ドルのクラウド環境もご提供します。

2010年に起こったハイチ沖地震へのチャリティーソングとして企画された「We are the World for Haiti」 の映像に感銘を受け、音楽を通じた様々な共有体験をしたいと思ったことがnanaのアイデア のキッカケとなったと言う。幅広い年齢層の音楽好きの4人のメンバーにより作られたベンチャー 企業。

■関連サイト

前へ 1 2 3 4 5 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事