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COMPUTEX TAIPEI 2012レポート特集 第19回

スケジュールの見えたWindows 8とパートナー企業の取り込み

2012年06月08日 20時25分更新

文● 塩田紳二

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マイクロソフトとアップル、グーグルを
取り巻くエコシステムの違い

各市場別に構造や主要な企業などを概観したあと、マイクロソフトのエコシステムでは、これらが融合しており、巨大なエコシステムができあがっているとした

 講演の初めにグッゲンハイマー氏は、これまでのPCや携帯電話、テレビやナビゲーション機器といった、各種デバイスの市場の構造を概観した。これはそのまま、マイクロソフトの製品分野に対応する。PCはWindowsで、スマートフォンはWindows Phone、テレビは家電でXboxが対応しているわけだ。

 だが現在は、これらの市場が融合し始めているという。例えばPCメーカーがスマートフォンを作ったり、インテルCPUがスマートフォンに使われるなどがそれだ。さまざまな機器の製造にODMメーカー(Original Design Manufacturer)が関わるようになっており、特に台湾のODMメーカーは、世界中で販売されるさまざまな機器の製造に関わっている。

 グッゲンハイマー氏はたびたび、「エコシステム」という言葉を使った。ここでいうエコシステムとは、複数の企業が特定の製品などに関わってビジネスを行なうことをいう。かつては、中心になる企業がそれ以外の関連企業を「サードパーティー」などと呼んだものが、最近ではエコシステムができない製品は、ビジネス的にも苦しくなることがわかってきたので、「パートナー企業」と呼び方も変わってきたわけだ。

 グッゲンハイマー氏はマイクロソフトと競合他社のビジネスにおける、エコシステムの比較を披露した。エコシステムの比較相手は、最大のライバルであるアップルとグーグルだ。

 まずマイクロソフトだが、組み込み機器からスマートフォン、PCやサーバー、基幹システムまでといった、広範囲な製品にソフトウェアを提供している。そのためにマイクロソフトを中心にしてみると、多くの企業が絡み合った複雑なエコシステムができあがる。またPCや家電の製造や流通を担当する企業は、WindowsやWindows Serverの顧客でもある。

 一方アップルは、基本的に製品やサービスはすべて自社でカバーする。iPhoneやiPadは売れているが、付随する周辺ビジネスはケースなどのアクセサリー類や、アプリケーションなどだ。もちろん、携帯電話の事業者もビジネスに関わるが、立場は限定されており、主要なサービスはアップルだけのものだ。

 これに対してグーグルは、サービスとAndroidなどのソフトウェアを押さえるのみで、ハードウェアの製造は多くの企業が担当する。その点ではマイクロソフトに似ているのだが、今のところ対象となるプラットフォームは、スマートフォンやタブレットに限定されている。「Google TV」やChrome OSなどの試みはあるものの、ビジネスとして立ち上がってはいない。

マイクロソフトのエコシステムと比較したのは、アップルとグーグル(Android)のエコシステム。アップルは1社で完結して他社に余地がない。グーグルは対象プラットフォームがまだ限定されている

 マイクロソフトのエコシステムは、前述のように複雑で巨大だ。もともとPCは「水平分散」の産業と言われるように、多くの企業が関係している。特にハードウェアに関しては、台湾との関係が強い。

 多数の企業が関係しているため、PCビジネスはマイクロソフトであっても、全体をコントロールはできない。逆にマイクロソフトのほうが、自身がカバーできないことは他社にまかせてしまうことが少なくない。OS開発の立場からPCの方向性を決めるのに関わることはあるが、この分野ではインテルが、CPUとチップセットで方向性を決めてしまうことも多い。

 だがマイクロソフトはWindows 8で、大きく方向転換をしようと考えている。ひとつは、スマートフォンやタブレット分野で「出遅れ」てしまったからだ。Windows CEで早期にスマートフォンを投入したにも関わらず、オペレーションの失敗でiPhoneやAndroidの後塵を拝することになった。

 スマートフォンに対してはWindows Phoneを投入しているが、まだ大きな成果を上げるには至らない。ここに来てWindows Phoneの将来バージョンには、「Windows RT」をベースにしたものが使われるという噂も出ている。そうなれば、マイクロソフトのすべての製品分野が、単一のWindowsカーネルでカバーされることになる。

 もうひとつは、これまでの企業向け製品を中心にした戦略を転換することだ。マイクロソフトが企業向けの製品から手を引くというわけではないが、これまでは、企業で使うシステムが最優先であり、一般ユーザー向けの製品は、そこから派生させたものでしかなかった。しかしスマートフォンやタブレットが大きく伸びたのは、ターゲットが一般消費者だったからだ。また、グーグルのサービスに対抗できなかったのも、企業向けのサーバー製品などと競合してしまうからでもあった。

Windows Serverは「Private Cloud」、Windows Azureは「Public Cloud」のプラットフォームであり、マイクロソフトはプラットフォームとその上のサービス、製品も提供するという位置づけを示したスライド

 グッゲンハイマー氏による講演は、サーバーOSや組み込み系、XboxそしてWindows 8と、幅広い範囲をカバーした。しかし企業向けOSは、Windows Azureなどによるクラウドのためのプラットフォームを提供するという位置へ一歩引いて、その上でマイクロソフトもいくつかのサービスやアプリケーションを提供するという立場に変わろうとしている。

 Windows 8が一般消費者をターゲットとしてタブレットに対応したことは、PCに大きな変化をもたらしつつある。今回のCOMPUTEXでは、単純なピュアタブレットだけでなく、キーボード合体型やタッチパネル付きクラムシェル、さまざまなヒンジ機構を使うコンバーチブル型、それらのハイブリッド型など、さまざまな製品が提案されている。ここ数年のPCに比べれば、製品バリエーションは確実にバラエティーに富んでいる。グッゲンハイマー氏は多数のWindows 8搭載新製品をステージで披露して、それらの紹介に大きな時間を割いたのも、その現われだ。

 PC市場は水平分散型であるがゆえに、Windows 8の今後はエコシステムに参画する企業の動きにかかっている。特に、iPad対抗のWindows 8タブレットが成功するかは、PCメーカーの動き次第ともいえる。ASUSTeKと東芝がWindows RTタブレットを発表したほか、複数のメーカーが製品を開発中とのことだ。しかし、マイクロソフトはWindows RTの立ち上げに慎重で、少数のメーカーと共同で開発を進めているという。

 グッゲンハイマー氏は講演の最初と最後で、パートナー企業と協調して今後もビジネスを進めていくというマイクロソフトの方針を述べた。それはパートナー企業の役割が限定されたアップルやグーグルに対しての、マイクロソフトの強みでもある。そしてまた、Windows 8や今後の製品を含む一連の発表を「マイクロソフト史上最大の立ち上げ」と評したが、それは「マイクロソフトも変わります」というメッセージを、パートナー企業に対して送っているかのようだった。

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