より多くのアンテナ、より遠くの端末へ
11nでは、複数のアンテナを同時に利用した高速転送「MIMO」(Multi Input Multi Output)に対応していたが、11acではアンテナの数がさらに増える。11nの市販製品ではアンテナ1本当たり150Mbpsで、これを3本同時に利用する450Mbpsが可能だった。規格上は4ストリームの利用も可能なので理論上の最高速度は600Mbpsだ。
11acでは、現時点で80MHz帯433Mbpsを3つ使う、最高速度1300Mbpsのコントローラーチップが最も高性能だが、通信相手ごとにストリームを分けてアクセスポイントが多くのストリームを扱う「Multi User MIMO」も規定されている。規格上は8ストリームを使って、最高速度は6.93Gbpsになる。
減衰しやすい高周波の5GHz帯を使うことによる、利用可能なエリアが狭くなるという問題に関しては、複数のアンテナでひとつのストリームを流すことで、局所的に到達距離を伸ばす「ビームフォーミング」技術で対応する。ビームフォーミングを簡単に説明するのは難しいが、送信側が複数のアンテナから位相(利得が入る場合もある)を変えて送信することによって、受信側で最大の利得が出るようにする。
一般的な無線LANのアンテナは、全方位にパワーが均等的に伝わる無指向性を使用するが、局所的にパワーを高めて任意の方向だけ伝達距離を上げる、指向性アンテナを使うこともある。ビームフォーミングは複数のアンテナを使い、位相や利得を変えることである程度の指向性を持たせることができる技術だ。これによって11acは、従来の11n以上の到達距離を実現できるという。
日本での製品化は電波法改正待ち
2013年には登場するか
現時点ではまだ、11acは正式規格になっていない。バッファローの製品も「ドラフト2.0」ベースの販売になる。この問題に関しては、2012年1月にブロードコムが日本で説明会を開いており、ドラフト2.0で大体規格が固まっているので、正式版との接続に問題はないと説明している。
まだあまり広く使われていない5GHz帯を使いながら近距離ではGigabit級の転送速度を実現し、ある程度の距離にも到達できる11acは、次の無線LANの規格としてふさわしいだろう。
ただし繰り返しになるが、11acが日本市場で使えるようになるには、前提条件として電波法施行規則の改正(5GHz帯での80MHz帯域利用)が必要だ。そのため日本市場向けの製品は、2013年に登場すると言われている。
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