硬い素材を熱で柔らかくして記録
磁気保持力は熱に大きく影響を受ける。そこで、部分的に加熱して保磁力を下げてから、記録しやすい状態にして書き込めば、常温では熱揺らぎの問題を受けない。例えて言えば、硬くて加工しにくいものを加熱して柔らかくするようなものだ。また、温度変化のスポットを小さくすることによって、磁気ヘッドの幅よりも小さな記録幅にすることも可能になる。これによって記録の幅、長さともに、今までより小さくできるようになる。
一見単純そうに見える技術だが、今まで不要だった(レーザーによる)加熱のための機構が必要になるし、短時間で加熱できて、記録が終わったら即冷えるように熱容量が小さく、(おおむね200度と言われる)加熱温度近辺で保磁力が大きく減り、かつ常温では高保磁力で、平滑性がよいディスクを製造しなくてはならないなど、実現のための課題は多い。
レーザー光線で加熱と言っても、ディスクの記録エリアの幅はすでに可視光線の波長よりも短い。そうなるとレンズなどの光学系で集光することができない。そこで登場するのが「近接場光」(near-field light/エバネッセント光)だ。近接場光を一言で説明するのは難しいのだが、光の波長よりも小さな穴に光を当てると、光は通らないが、極小の滲み出しである近接場光が生じる。
近接場光はせいぜい150nm程度しか到達しないが、HDDの記録ヘッドとディスク表面の隙間はそれ以下の距離なので、近接場光によってディスク上の極小スポットを加熱可能になる。
一方で、日立の技術論文誌「日立評論」2011年1月号には「HDDの記録容量を現行の5倍以上に高める熱アシスト方式の磁気ヘッド」という記事がある(関連リンク)。これによれば、熱アシスト記録を使えば記録密度2.5Tbit/インチ2まで実現できるという、シミュレーション結果が得られたという(現在の製品は500~600Gbit/インチ2前後)。
日立の方式は、極小クサビ型の金素子にレーザーを当てた際に発生する、「ローカルブラズモン共鳴」という仕組みで近接場光を作り出すようだ。
熱アシストなしでの高密度化は、次の製品となる「1333GBプラッタ」が限界ではないかと言われている。そうなると、1333GBプラッタかその次の1500GBプラッタあたりで、熱アシスト記録を使ったHDDが市場に投入されるだろう。
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