まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第31回
ソーシャルゲーム業界は、新しい価値を生み出す必要がある
コンプガチャ=絵合わせ、消費者庁が7月から規制の方針
2012年05月18日 21時00分更新
既定路線とはいえ、インパクトは皆無ではない
では今回の発表は業界にどのようなインパクトを与えるのだろうか。
実はコンプガチャ自体は、ソーシャルゲーム運営6社で構成する業界団体(6社協議会)も含め、5月中に多くは終了するという方針が見えており、業界としては織り込み済みという面があった。その面ではインパクトは少ない、既定路線での決定とも言える。
一方売上に関しては、色々な見方が存在するが、15~20%の業績ダウンにつながるという意見もある。収益面では、業界に対するインパクトがないとは言えないだろう。
ソーシャルゲーム業界側としては、コンプガチャに近い楽しみがありながら、かつ違法ではなく安心して遊べるものを生み出していく必要がある。ただし、運用基準があくまでも案の状態であり、解釈の余地があるという点はあまり好ましいものではないだろう。ギリギリのところを脱法的に突いたり、逆に拡大解釈を恐れて萎縮する効果などが出てくる可能性もあるからだ。
ソーシャルゲーム市場が得たもの、失ったもの
近著にも書いたが、ソーシャルゲーム市場ではゲーム内の課金がなくても楽しめるような取り組みなど、ゲームそのもののあり方を模索することが必要だ。しかし実際にはソーシャルゲーム市場自体の盛り上がりが、売上の多くを稼ぎ出すガチャやコンプガチャに依存していたというのも事実だろう。
今回消費者庁自体の対応は早かったが、その過程はどうだったか。当初はガチャそのものは容認する(違法ではないとした)発言があったが、連休中の5月5日に消費者庁がコンプガチャについては違法の方針を示すという一報が読売新聞に掲載され、事態は急転直下。
正式な見解が出る前に飛び出したこの新聞リークは、業界側の五月雨的な対応を生んだ。6社協議会があるにも関わらず各社の足並みがそろわず、例えば先週、先行して決算発表会を開催したグリーはコンプガチャに関して見解を示さなかったが、翌日DeNAなど他社からは中止の意向が表明された。グリーは後追いで改めて会見を開かざるを得ないという対応になった。本来であれば、協議会からまず統一見解があってしかるべきだったのではないだろうか。
結局業界の混乱が目に見える形となったわけだが、これが「ソーシャル業界は大丈夫なのか?」というユーザーの印象につながってしまったのは非常に残念である。
これ以外にもRMTを始めとした、アイテムの換金市場の存在など、ソーシャルゲームの周辺には難しい問題が多く存在する。RMTに関しては、GREEもDeNAも対応を表明しており、例えばグリーはアイテムにIDを振り、トラッキングするといったところまで踏み込んでいるものの、ネットオークションなどを通じたアイテム取引は減少したものの、続いている状況だ。
RMT自体に法律上の問題はないという見方もあるが、確率によって得られる商品が外部で現金化できるという点に規制が必要だという見解もある。これは規制を受ける側だけでなく、規制する側にとってもどこに線を引き、バランスを取るかという問題につながる。
著者紹介:まつもとあつし
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ネットコミュニティーやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、コンテンツのプロデュース活動を行なっている。DCM修士。『スマートデバイスが生む商機 見えてきたiPhone/iPad/Android時代のビジネスアプローチ』(インプレスジャパン)、『生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ』(アスキー新書)、『スマート読書入門』(技術評論社)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)も好評発売中。Twitterアカウントは@a_matsumoto
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