16日、iPhone/iPad用のソーシャルマガジンソフト「Flipboard」の日本語版が公開された(アプリダウンロードページ)。FlipboardはTwitterやFacebookといったソーシャルメディアのほか、RSSフィードなどのデータを取得し、自動的に雑誌のようなレイアウトを生成。電子書籍のように指でめくりながら記事を閲覧できるソフトだ。米国のTime誌の「2010年の発明ベスト50」(“The 50 Best Inventions of 2010”)でも選ばれており、日本でも愛用している人が多い。
日本語版の発表の前日となる15日に、都内でFlipboard社のCEOであるマイク・マッキュー(Mike McCue)氏を迎えた記者懇談会が行われたので、その様子をお伝えしよう。
Flipboardの誕生の原動力は
アイディア、デバイス、デザインへの愛!
Flipboardはiphone/iPad専用のソフトながら、2012年2月時点で800万ダウンロードを達成しており、iPadの10台に1台にインストールされているという。月間15~20億フリップ(ページをめくった数)で、米国以外からの利用が全読者の40%。日本のユーザー数は同社の調査では第3位となっている。
画像をみてもらえば分かるとおり、このそのソフトの秀逸な点はソーシャルメディアの情報を電子書籍のような形で閲覧できるところだ。例えばTwitter。通常ならばただのタイムラインと短縮URLで表示される味気ないものも、画像とタイポグラフィを組み合わせた雑誌的なものとして表示されるため、いままでスルーしていたようなトピックも思わず開いてしまう。Twitterよりも画像を使うことの多いFacebookならより雑誌的に表示される。
ソーシャルメディアだけではなくRSSフィードも読み込みできるため、自分の興味のある分野に特化したページ――海外メディアを集めたものや、テクノロジー、スポーツ、特定の芸能グループなど、専用のページ作成が可能だ。
CEOのマイク・マッキュー氏によればFlipboard着想のきっかけは氏がネットスケープ社に在籍していた1990年代までさかのぼる。
「それまでブラウザでいろいろなサイトの情報を1つにまとめるというものがありませんでした。それぞれのサイトで何が起きているのかというのを知るには、それぞれのサイトに行ってチェックしなければならなかった。1ヵ所で見られるようなものがあればいいなと思っていた」
マッキュー氏は1989年にPaper Software社を立ち上げ、この会社はNetscapeに買収される。同社の技術担当副部長を務めたあと、1999年に音声コミニュケーションネットワークをウリにするTellme Networksを設立。そのTellme Networksは2007年にマイクロソフトに買収され、同社のジェネラルマネージャーとして就任している。そして2010年、マッキュー氏はFlipboard社を立ち上げた。彼はシリコンバレーで活躍する起業家としても一流だ。
Flipboardの実現はアイディアだけでは不可能だった。表現するデバイスの登場が必要だ。それがiPadだった。
「最初にFlipboardのアイディアを考えていたとき、まずはWebサイトで始めようかと思っていたのですが、ちょうどその頃、アップルから新しいタブレットが出るかもしれないと聞きました。そういったデバイスがあるなら、ソーシャルマガジンを作れるのではないか思いました。だからアップルがiPadを出したときは非常に興奮しました。デジタルでありながら、印刷媒体の美しさをもちつつ、ソーシャルメディアの力をもつものができると思ったからです」
アイディアとそれを実現するデバイスの登場でFlipboardの実現性が高まったが、マッキュー氏はさらに1要素を付け加えた。それが従来の雑誌が持っているデザイン性の高さをFlipboard上で表現させよう点だ。
「印刷媒体の美しさというのが大好きなんです。これはまだWeb上で表現しきれていません。非常に美しい写真やレイアウト、タイポグラフィーに関しても素晴らしく配置された記事があっても、印刷媒体からWebに移される際に、サイトナビゲーションやコンテンツを利益化するための広告枠などが入ります。すると雑誌ではあんなに美しかった記事もWebではこんなに小さく縮小されたものになってしまう。Webのコンテンツにしても印刷物のような美しいコンテンツにする機会があると思いました」
1つの場所に情報を集約するアイディアとそれを実現するデバイス、そしてレガシーメディアが作り上げてきたデザイン性の高さを融合させることにより、Flipboardはできあがったのである。
広告モデルの事業収益を日本でも展開
Flipboardは現在社員が55名。日本にもスタッフはいるようであるが、多くはカルフォルニアのアルパトロにいる。
同社は広告モデルで運営されており、米国ではFlipboard上に表示されるパブリッシャー(出版社やWebサイト)の広告ページに対しレベニューシェアを結び、収益を得ている。マッキュー氏によれば「雑誌、新聞、ブログなど、世界中で2000社のパブリッシャーとおつきあいがある」という。
日本語版を投入したことにより本格的に日本での活動を始めるようだ。支社開設も数ヵ月と見積もっている。ここで気になるのが日本での収益モデルを米国のものと同じように考えているのかという点だ。日本のパブリッシャーは多くが広告代理店を通すか、直接広告主から代理店を挟まない形で広告費を取っている。
マッキュー氏は「まずは日本の広告代理店とパートナーシップを結ぼうと考えています。まだ初期段階ではあるのですが、そういう広告代理店を通じて、出版社、あるいは広告主との関係を築いていきたいと思っています。一番大事なのはパートナーシップだと思っていますので、今回の滞在でも時間をそういったパートナーとのお話に費やしています」と説明する。それをベースに、今年後半には米国と同じモデルでの広告サービスの展開を考えているとしている。
現在ソフトはアップルのApp Storeで無料で配られており、今後数ヵ月でAndroid版も投入する予定だ。そうすればFlipboardのユーザー数はさらに多くなり、ソーシャルマガジンという形式も日本で定着するに違いない。現在日本ではタブレット系製品に訴求力がないと言われているが、Flipboardがキラーアプリとなり、そのような状況を打破するのではないかと考えてしまうのは、われわれだけではないだろう。まずは使ってみて、そのおもしろさを体験してほしい。