IPC向上の限界に達しつつある
P6アーキテクチャーの後継者
厳密に言えば、Ivy BridgeのCPUコアは細かく改良を施されている。だが、IPCの改善に効果的というほど、大きな改善はすでに望めなくなっている。最初はPentium Proとして登場し、Pentium II/IIIとして改良されたP6アーキテクチャーをPentium M世代で改めて再設計。Core/Core 2世代では内部構造を拡充し、さらにCore i世代ではPentium 4世代に培ったさまざまな性能改善技術を盛り込む形で性能向上を目指してきた。
最初のPentium Proの登場(1995年11月)から数えると16年あまり、P6アーキテクチャーの開発スタート(1990年6月)から数えると、22年近く経過しているアーキテクチャーであるが、そろそろIPCの改善も頭打ちに来たと考えても間違いではないと思われる。もちろん、IPCを改善する方法そのものはまだまだいくつもあるが、そろそろ「どんなケースでも性能が上がる」的な策は尽きてきたのだろう。
これは車のエンジンと同じようなものだ。「金額が一桁上がっても良しとする」とか、「300km走ったらフルメンテナンスが必須」といった具合に、バランスを崩してもいいなら性能を上げることは難しくない。だが、パフォーマンスはしばしばピーク性能よりも、トータルバランスで語られることが多いだけに、現在のバランスを崩すことを前提にチューニングするのは、それによって得られる性能改善よりもバランスを崩すことで失う性能劣化の方が、問題視されやすい。
このあたりでAMDは大胆に方針転換をした。今のところAMDの方針は評判がいいとはとても言えない状態だが、インテルもそろそろそうした方向転換を、迫られる時期に来ていると判断すべきなのかもしれない。
ところで、消費電力はSandy Bridgeから半減させたにも関わらず、Ivy Bridgeは発熱ではむしろクリティカルになっている。ようするに「熱くなりやすい」わけだ。理由のひとつは、ダイサイズが大幅に小さくなったため、ダイそのものの熱容量もSandy Bridge世代よりも小さくなっていることだ。ほかにもトランジスター数そのものが増えて熱密度が増していること、22nm世代のトランジスターの特性もあるのだろうと思われる。
誤解を招かないようにもう一度明記しておけば、熱量つまり消費電力そのものは半減している。そのため定格動作を前提にすれば、従来のSandy Bridge対応のクーラーを使っても、Ivy Bridgeは良く冷えることになる。ただ実際に試してみると、むしろターボ・ブースト時ではSandy Bridgeより性能が上がりにくい、という現象が出ている。ようするに長時間平均を取れば、Ivy BridgeはSandy Bridgeよりも発する熱量は少ないし、温度も下がる傾向にあるのだが、ターボ・ブーストなどで一時的に消費電力が増大したときの温度の上がり方が急になる、という傾向があることだ。
これに関して面白いのは、「TjMAX」※1である。これまでインテルは、ノート向けCPUなどではTjMAXの値を明記した場合もあったが、Sandy Bridge世代におけるデスクトップ向けCPUのTjMAXは未公表だった。
※1 ジャンクション温度の最大値で、回路の動作温度の最大値。
ところがIvy Bridge世代では、データシート(Chapter 1-4)にこのTjMAXの値が明記されるようになったことだ。抜粋したのが以下の数値である。
モデルナンバー | TDP(W) | TjMAX(度) | モデルナンバー | TDP(W) | TjMAX(度) |
---|---|---|---|---|---|
i7-3770K | 77 | 105 | i7-3770 | 77 | 105 |
i7-3570S | 77 | 105 | i7-3550 | 77 | 105 |
i7-3450 | 77 | 105 | i7-3770S | 65 | 103 |
i5-3550S | 65 | 103 | i5-3450S | 65 | 103 |
i7-3770T | 45 | 94 | i5-3570T | 45 | 94 |
TDPが77Wの製品は、無条件でTjMAXが105度に設定されている。Sandy Bridgeまではというと、TDPが95WのCore i7-2700Kでも、TjMAXは100度であった。Ivy Bridgeの方が熱くなりやすいという傾向が、データシートからも明確である。
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