次世代のP10でも波に乗れず
自前の路線は消滅
しかし、いつまでもGLINT R3ベースのままでは競争力がなくなると判断したためか、3Dlabsは2000年頃から、GLINT R3/R4と並行して次世代のレンダリングエンジンを開発していた。これは2002年に、「P10」アーキテクチャーとして発表された。
P10はまた独特なアーキテクチャーを採用したものだった。DirextX 9やOpenGL 2.0に対応すると発表されて、2002年にはまず自社で「Wildcat VP970/870/760」というラインナップで、P10搭載カードが投入される。ただしコンシューマー向けにはP10ではコストがかかりすぎると判断されたためか、2003年にはP10に加えてシェーダーの数を半分に減らした「P9」コアも投入された。P9は唯一、Creative Labsの「Graphics Blaster Picture Perfect」に採用されてコンシューマー向け製品として投入されるが、これだけで終わってしまう。
P9/P10アーキテクチャーそのものも、2003年一杯で製品投入が終わる。2004年からは同じWildcatシリーズのラインナップながら、3Dlabsが2000年に買収したIntergraph社のIntense3D部門の流れを汲む製品に切り替えられてゆく。そもそも3Dlabs自身が、2002年にはCreative Labsに買収されていた。
結局2006年3月に3Dlabsは、グラフィックスカードやGPUの製造・販売ビジネスから撤退することとなった。同社はその後、ARMベースのSoC開発のビジネスに切り替え、社名も3DlabsからZiiLABSに切り替わっており、すでに昔日の面影は皆無である。
Permedia 3が黒歴史入りした理由は、DirectX、特にDirect3Dへの対応が後手に回ったこと、また競合メーカーに比べて、製品投入が遅かったのが主な要因である。しかし、それが間に合わないと見るや、放置プレイを決め込んだことも大きな要因と言えよう。
他方P10に関して言えば、そもそも発表されていたDirectX 9への対応が実際には実現できなかった(DirectX 8.1止まり)ことが、主要因になろうかと思う。当時はOpenGL向けのGPUでも、NVIDIAやATIが急速に性能を上げつつあった。これに拮抗できる性能をついに確保できなかったことも、P10の寿命を縮めた大きな要因である。引いてはそれが、同社がP9/P10を捨ててIntense3Dベースの製品に切り替える要因にもなり、最終的にこのビジネスをあきらめることになったのは間違いない。
表面的に言えば、P10が思ったほどの性能が出なかったことが3Dlabsの敗因なのだが、その裏にあるのは、ATIやNVIDIAがコンシューマー向けのシェアをがっちり握ることで性能競争を激化させて、これがハイエンド市場まで喰ってしまったという話である。こうした話は珍しいことではない。
例えばCPUでは、x86市場の激化による急速な性能向上が、RISCベースのワークステーションやサーバーの市場を喰ってしまった。それが逆に今では、ARMアーキテクチャーが急速にx86の市場を喰い始めていることに似ている。ようするに、プロセッサー市場では「数が力」なのであり、その「数の力」に勝てなかったのが、P10もまた黒歴史入りしてしまう理由だったのだろう。
この連載の記事
-
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 -
第761回
PC
Intel 14Aの量産は2年遅れの2028年? 半導体生産2位を目指すインテル インテル CPUロードマップ -
第760回
PC
14nmを再構築したIntel 12が2027年に登場すればおもしろいことになりそう インテル CPUロードマップ -
第759回
PC
プリンター接続で業界標準になったセントロニクスI/F 消え去ったI/F史 -
第758回
PC
モデムをつなぐのに必要だったRS-232-CというシリアルI/F 消え去ったI/F史 -
第757回
PC
「RISC-VはArmに劣る」と主張し猛烈な批判にあうArm RISC-Vプロセッサー遍歴 - この連載の一覧へ