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大沼弘幸の『週刊NOTTV』 ― 第1回

“見つめる”に特化した編成が求められるスマホ向け放送局

NOTTVは、その名前どおり「TVではないもの」を目指すべきだ

2012年05月08日 09時00分更新

文● 大沼弘幸

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 この連載は、4月に開局したスマートフォン向け放送局「NOTTV」を観ながら、参加者がさまざまな意見を述べていくものです。

 対応端末やサービス内容に関する情報は重要なポイントですが、放送局である以上、もっとも重要なものはコンテンツ(=番組)であると位置づけ、NOTTVで放送中の魅力的な番組や、視聴者視点で「こうあってほしい」と感じる要望などを雑多なテーマでお届けします。

 第1回は作家で、ラジオ番組の構成なども手がける大沼弘幸氏による、NOTTVの番組編成に対する感想と意見をお届けします。

 新しいメディアやジャンルの立ち上がりには、いつもドキドキワクワクさせられる。そこには、今まで見たこともないようなものが生まれてくるかもしれないという期待感と高揚感があるからだ。

4月1日、mmbiがスマートフォン向け放送局「NOTTV」を開局した

 テレビの立ち上がりには、残念ながら世代的に間に合わなかったが、当時の話を聞くと、抱腹絶倒なエピソードばかりで実に面白い。

 例えばテレビの初期の頃、今では到底信じられないことだろうが、外国テレビは生アフレコで吹き替えられていたのだ。当然、セリフを間違えたり、トチったりすれば、そのまま放送されてしまう。

 中には、収録の日を間違え、馴染みの店で酒を飲みながらテレビを見ていたら、自分が出演するはずだった番組が映って、大慌てしたなどというとんでもない話まである。

 新たな文化は混沌の中からしか生まれない。

 これまで、たまたまではあるのだが、アニメ誌、OVA(オリジナルビデオアニメ)、声優誌、アニラジ、ネットラジオなど、さまざまなメディアやジャンルの立ち上がりに関わることができた。そのときに感じていたのは、先の見えない混沌とそこから生じるドキドキとワクワクである。

 だから、新しいメディアが誕生すると聞くと、思わずドキドキワクワクしながら見守ってしまう。

 というわけで、NOTTV(ノッティーヴィー)である。テレビがデジタル地上波へ移行したことによって空いたアナログ地上波の周波数を使い、スマホ向けに放送するのだという。携帯用のテレビといえば、すぐにワンセグを思い出すが、NOTTVはワンセグの約10倍の情報量。解像度もDVD並みの720×480ドットある。しかも、ワンセグは地上デジタル放送そのままの番組編成だが、こちらはオリジナルの番組編成だ。ワクワクしないはずがない。

 さっそく見てみることにした。まずは、番組表。チャンネルは3つある。「NOTTV1」と「NOTTV2」、そして「NOTTV NEWS」だ。

 この「NOTTV NEWS」はCSで放送している「TBSニュースバード」(2012年10月末まで)を24時間流しているニュースチャンネルである。

 手始めに「NOTTV NEWS」から見始める。画面が映った途端にビックリした! いきなりCMが始まったからだ。なんとなく「ネットの有料コンテンツはCMなし」という意識があったせいなのだが、考えてみればCS向けの番組をそのまま流しているのだから、CMが入っても不思議ではないのだ。それに、CSだって有料コンテンツなわけだし。とりあえずは納得。

 「NOTTV1」はエンタメ系、「NOTTV2」はスポーツ・音楽系と、大きく分ければそういうくくりになるらしい。ただし、「NOTTV2」でもアニメやドラマをやっているし、「NOTTV1」でも音楽番組やスポーツニュースをやっているから、完全に分かれているわけでもないようだ。

 これは、あまりにももったいない。今のところ、それほど番組数が多くないようなので仕方のない面もあるのだろうが、せっかく2つのチャンネルがあるのなら、それぞれの色をちゃんと出し、特化させていったほうが絶対にいい。さらにいえば、バラエティ番組、アニメ、ドラマなどは時間枠もきっちりと決め、「このチャンネルのこの時間はこれ」というように特化させるべきである。

 ラジオにアニラジという新しいジャンルが生まれ、大人気を博したのは、アニメ・声優という特定の内容に特化した番組作りをしたからである。しかも、あえてアニラジだけを特定の時間帯に固めて置いたり、帯番組ではないのに毎日同じ時間からアニラジが始まるようにした。それによって、リスナーのほうにも、この時間になったらアニラジを聞くという視聴習慣ができたのである。

 ところが、NOTTVの場合だと、例えば「NOTTV1」の水曜夜のプログラムでは、21時から外国ドラマの『アンダーカバー』、22時から『デイリーサッカーニュース』、22時半からアニメの『妖狐×僕SS』となっている。確かに、どれも若い人向けの番組だが、正直言ってこの3番組を続けて見る人はまずいないだろう。趣味があまりにも違いすぎるからだ。

 さらに、21時からの1時間は毎日ドラマの枠ということになっているようなのだが、火曜日は国産ドラマ、水曜日は外国ドラマ、木曜日は韓流ドラマとなっている。これも、毎日この時間にドラマを見続ける人はあまりいなさそうだ。支えているファン層が大きく違うからである。

 実をいうと、既存のテレビなら、こういう編成もありなのだ。今のテレビはリビングに置かれた大型画面のモニターで見るものだから、なんとなく流れているものをなんとなく眺めているという視聴方法が可能なのである。言い換えれば、NOTTVの現在の番組編成は、まだ既存のテレビの番組編成の感覚から抜け切っていないということである。

 だが、NOTTVはスマホの小さな画面をじっと見つめながら鑑賞するものだ。タブレット型もあるが、7インチでも大きさは新書判程度の大きさで、やっぱり眺めるというわけにはいかないだろう。「眺める」と「見つめる」、この差は大きい。「眺める」なら、なんとなくでもいいが、「見つめさせる」ためには、視聴者に「どうしても見たい」と思わせ、その番組まで誘導しなければならない。NOTTVは「見つめる」を前提とした番組編成をすべきなのだ。

 そのためには「この時間」の「このチャンネル」では「この番組」をやっているということをはっきりと印象づける必要がある。

 例えばアニメなら、何本か続けてやったっていいはずである。再放送は別のチャンネルでやるという基本方針らしいが、それならそれで前回分の再放送と今回分の本放送を続けてやるという手だってあると思う。そのぐらい大胆不敵な番組編成があってもいいはずだ。

 番組作りにも同じことがいえる。見たいと思っている人が、見たいと思うような形で番組を作っていく。そうでなければ、なかなか「見つめて」はくれないだろう。

 そういう意味でいくと、『スマホのトリセツ』という番組は、意図をはかりかねる面がある。スマホで見る番組で、スマホ用のアプリを紹介するという発想は正しい。まさにNOTTVならではの番組だ。ところが、番組の構成は、テレビの通販番組そのものなのである。これでは、スマホのアプリが好きというようなタイプの視聴者を満足させることはできないだろう。むしろ、アプリが好きで好きでたまらないという人に「おれはこのアプリのここが好きだーっ!」と熱く語らせたほうが視聴者の共感を得るに違いない。

 こうやって見ていくと、実はNOTTVという新たなメディアに一番合っているのは『AKB48の“あんた誰”』という番組のような気がする。

 番組の作りは、極めてシンプルだ。秋葉原のAKB48劇場のステージに、AKB48の中でもあまり目立たないといわれているメンバー数人が登場し、トークをしたり、質問に答えたりする。その様子を、そのまま放送しているだけだ。目立たないメンバーばかりを集めているから、最初から「あんた誰」というタイトルをつけているのも潔い。

 だが、こういう番組なら、AKB48ファンは間違いなく「見つめる」。しかも、毎日17時から帯で放送しているから、始まる時間もはっきりと分かる。

 こういう番組の作り方こそが、既存のテレビではできなかった新たな方向性なのではないか。

 そう思いながら見ていたら、番組の中で「(NOTTVの中で)この番組が一番人気があるんですよ」と言っていた。「ああ、やっぱり!」と思っていたら、NOTTVのバナー広告も『AKB48の“あんた誰”』をメインにしたものに変わっていた。

 どうやら、ようやくNOTTVのスタッフも気づき始めたようである。

 もちろん、AKB48の人気に支えられているのは間違いないが、同時に、NOTTVという新しいメディアの方向性を指し示すものであるからこそ「見つめられている」のだということも認識して欲しい。

 そうすれば、そこからまたNOTTVならではの新たな人気番組が生まれてくるはずである。

大沼弘幸

 作家&ライター。小説の代表作は『ハード・リベンジ、ミリー 復讐の序曲』(ぶんか社文庫)『桃太郎電鉄 怪獣編 キングボンビーの逆襲』(電撃文庫)など。ラジオの構成・脚本を多数手がけ、自ら出演もしている。アニメ特撮おすすめサイト『MILO!』編集長。

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