マイニングブラウニーが狙うのはWebのビッグデータ活用
“ポストECの有望ビジネス”ベンチャーが考えるビッグデータ
2012年05月08日 09時00分更新
Webクローラーやテキストマイニングなどを手がける国産ベンチャーのマイニングブラウニーは、ECサイト構築の次の波としてビッグデータを捉える。代表取締役の得上 竜一氏に、ビッグデータの取り組み方やビジネスモデルについて聞いた。
社内にはそもそもビッグデータはない?
マイニングブラウニーの「mitsubachi」は、条件に合わせてWeb上のさまざまなデータを収集してくるWebクローラーだ。mitsubachiはWeb API経由で利用できるクラウド型で提供されており、収集したデータをAmazonなどのクラウドDBやMySQLなどのデータベースに格納し、データマイニングすることも可能。これにより、自社製品の評価を収集したり、競合製品の情報を集めたり、といった今で言う「ビッグデータ」的なデータ解析が行なえるわけだ。
こうしたマイニングブラウニーの起業物語やビジネス概要については、「IT業界のマイブラはアキバ価格戦争の勝者だった」を一読いただきたい。
こうしたマイニングブラウニーのようなベンチャーにとって、ビッグデータとはECサイト構築の次に来るビジネスのタネだ。「簡単にショップが持てるということで始めたECサイトの構築に関しても、独自ショップにこだわるユーザーが少なくなっています。次にどんなビジネスをしようと考えたときに、ちょうど登場したのがビッグデータなんです」(得上氏)という捉え方だ。
得上氏にとってビッグデータとは量ではない。「セブンイレブンさんくらいにまでなれば、POSデータだけでもビッグデータでしょう。一方で、2~3店舗しかないスーパーの売り上げデータだけでは、ビッグデータにはならないですよね」(得上氏)というわけだ。一方で重視するのは、やはりデータ自体が増え続けること、そして、それらをリアルタイムに解析できることだ。「ビッグデータの世界では、3年前のデータを溜めておいても意味がないです」(得上氏)。
とはいえ、そんな勢いで増えるデータを企業は持ち得るのか? 社内という観点では、ビッグデータを持つ企業は少ないと得上氏は分析する。「大企業では社内のデータが整理され、いわゆる『3C』のうちのCompanyの情報はある程度まとまっています。でも、次に3CのうちのCompetitorとConsumerについて分析しようと思っても、そもそもデータを持っていないことが多いんです」という。一方で、社外(Web)を見れば、CompetitorやConsumerを分析するための情報がごろごろ転がっている。ここでWebクローラーであるmitsubachiの出番というわけだ。
ビッグデータ=Hadoop/MapReduceではない
マイニングブラウニーが狙っているのは、Webから収集したデータをビジネスで活用したい中小企業だ。「テキストマイニングを始めたいけど、高価で導入は無理という会社はいっぱいあります。でも、mitsubachiを使えば、本当に調べたいことを、小さい規模から試すことができます。スモールスタートのビッグデータです」(得上氏)。
そのため、マイニングブラウニー自体はシステム開発を請け負わず、中小企業に強いパートナーが、低価格でビッグデータビジネスが始められるよう、API経由でWebクローラーを利用できるようにした。また、テキストマイニングやページのキャプチャなどのコンポーネントも用意されており、用途にあわせて組み合わせられる。
また、mitsubachiのインフラ自体をクラウドに移行し、運用コストの削減を図っている。「(初期からAmazon EC2を利用している)私からすれば、課金とスケールが連動するクラウドの従量課金の方が、当たり前。今買っているハードディスクの価値が3年後どれだけ下がっているのか考えたら、自社で大きなストレージを持つ理由が見つかりません」(得上氏)とのことで、ビッグデータの運用にはクラウドが前提だと説明する。
このようにマイニングブラウニーは、ビッグデータに大きな可能性を見いだし、データの収集や解析、インフラ、そしてビジネスモデルまでをある程度描いている。一方で、Hadoop/MapReduceが非構造化データを効率的に扱える魔法のツールとして見るような理解には違和感を覚える。あくまで私見と断った上で、「ビッグデータの成功事例としてGoogleが出てくるからだと思うのですが、GoogleはMapReduce前提のメタデータを保存しているので、成功するのは当たり前。しかし、一般の企業でそんなきれいなデータを持っているところはほとんどないです」と述べる。これに対して、mitsubachiはこうした分散処理に関しても考慮されており、ビッグデータの収集に最適化されているとアピールする。
課題は、やはり事例がないことだ。得上氏は、「(事例がないので)ユーザーさんもパートナーさんも、ビッグデータで実現できることにピンと来ないのです。今後はパートナーとも話をして、面白い使い方をしている手持ちの事例を公開したいと考えています」と述べる。
この連載の記事
-
第14回
ビジネス
“シリコンバレーの技術者集団”ではトレジャーデータを見誤る -
第13回
デジタル
セクシーなデータサイエンティストになるまで5年かけていい -
第13回
ビジネス
富士通のキュレーターに聞いたビッグデータの新しい活用論 -
第12回
ビジネス
ビッグデータに一番近いダイレクトマーケターが考える価値 -
第11回
ソフトウェア・仮想化
「データ」をビジネスにしないとIT業界では生き残れない -
第10回
ソフトウェア・仮想化
富士通のキュレーターが挑む「ビッグデータからものづくり」 -
第9回
ビジネス
ビッグデータを使うWeb事業者が外食産業に進出したら? -
第7回
ソフトウェア・仮想化
“データが語る時代の端緒”統計のプロが考えるビッグデータ -
第6回
ソフトウェア・仮想化
“ビジネスでの価値は事例が語る”IBMが考えるビッグデータ -
第5回
ソフトウェア・仮想化
“非構造化データは宝の山”オートノミーが考えるビッグデータ -
第4回
ソフトウェア・仮想化
“常識を覆す迅速な仮説検証へ”JR東WBが考えるビッグデータ - この連載の一覧へ