CL-GD547Xの開発に失敗した原因は、今となっては藪の中であるが、結局のところCirrus Logicは、BitBlt以外のまともな描画アクセラレーターをほとんど実装できていない。そのあたり根本的に技術力というか、エンジニアの集め方が間違っていたのではないか? と筆者は考えている。
理由はともかく、CL-GD547Xシリーズがこんな体たらくだから、CL-GD546Xシリーズはある意味、登場前から失敗が決まっていたようなものである。それを見越して同じ1996年には、「CL-GD5480」も投入される。Alpineのコード名からわかるとおり、CL-GD543Xシリーズのコアを引き継いだもので、具体的にはCL-GD5446コアにPCI 2.1の対応とSGRAMのサポートを追加しただけのものである。
「3Dではもはやどうにもならないので、せめてメディア対応機能を強化して、こちらで多少なりとも生き残りを……」という発想だったと思われるが、似たような機能は他社も当然搭載してくるわけで、差別化はおろか延命にすらならなかった。データシートを見ると「Low-resolution modes for Direct3D」なんて文言が踊っているが、これはようするにDirect3D HEL(Hardware Emulation Layer)を使って全部ソフトウェアで処理するという意味で、もはや苦し紛れとしか言いようがない。
結局この1996年に、Cirrus LogicはPC向けグラフィックスカード市場から撤退を決断する。とはいえ冒頭に述べたとおり、例えばWestern Digitalは1991年に撤退を決めたときにグラフィックス部門を丸ごとフィリップス(のちのPhilips Semiconductorで、現NXP Semiconductor)に売却している。それに対して、Cirrus Logicがグラフィックス関連の資産をMagnum Semiconductorに売却したのは、2005年のことである。
1996年の時点での撤退はあくまでグラフィックスカード市場からで、その後もノート向けグラフィックスチップは引き続き供給していた。しかし新製品が絶えて久しい状況では、それほど長く売り続けられるものでもない。グラフィックチップ関連の特許収入も大きいものではなかったから、単に買い手がなかなか付かなかった、ということではなかったかと想像される。そうしたことも勘案すると、CL-GD547Xが完成しなかったことのツケはかなり大きかった、と言っていいと思う。
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