バーチャルサラウンドとリアル5.1chの差異
小林 「バーチャルサラウンドとリアル5.1chにもそれぞれメリットとデメリットがあるんですね」
鳥居 「その通り。リアル5.1chは要するに“後ろから聴かせたい音は後ろにスピーカーを置いて再現しようぜ”という正攻法。そのぶん、スピーカーの数は増えるし、配線の手間もある。11.2chなんてシステム構成もあったりするけれど、スピーカーの数が増える分、各スピーカーの音の干渉も増えてしまうという難しさもある」
小林 「そのあたりを上手く解決する方法が、バーチャルサラウンドというわけかあ」
鳥居 「そういうことになるね。そして、バーチャルサラウンドには、お手軽な方式と本格的な方式の2つがある。お手軽な方式は、後ろのチャンネルの音はディレイを使ってほんの数ミリ秒だけ遅らせる。これは聴覚心理学に基づいていて、人間の脳は、わずかに遅れた音を『後ろから聞こえた音だ』と感じる傾向があるためです」
ディレイを使った方式は、サラウンド用のスピーカーを側面や背面に向けることで、物理的に調整しているものもある。スピーカーから直接音が耳に飛び込むのではなく、部屋の壁などを反射して少し遠回りして(遅れて)耳に届くというわけだ。
一方、もう1つの本格的な方式は、ディレイだけでなく頭部伝達関数を利用したもの。人間の耳は2つで前後左右の音の位置を判別できる。たとえば、左右の位置は左耳と右耳の入ってくる音のずれを聞き分けている。右にあるものの音は右耳の方に速く届き、左耳には遅れて届くので、音源が右にあるとわかるわけだ。
では、なぜ前後を聞き分けられるかというと、頭と耳の形で音が反射することによる波形の変化を、後天的に学習しているから。これは生まれてから色々な音を聴くことで育っていく。特に耳の形は前側の音がよく聞こえるような形状になっているので、後ろからの音とは明確に違いがあることは想像しやすいだろう。
この仕組みを人工的に発生させるのが、頭部伝達関数を利用したバーチャルサラウンドの仕組み。あらかじめ信号処理で後ろから聞こえたと錯覚するように信号を補正しているわけだ。
小林 「確かに、自宅の『YHT-S351』でバーチャルサラウンドを聴いているとき、頭を動かしたり、耳をいじったりすると、サラウンド感がおかしくなることはありますね」
鳥居 「しかも、こうした信号処理による補正は人間の耳の感度の高い帯域である2500Hzくらいまでは効果があるけれど、それ以上の高域では効果が出しにくいという弱点がある。
ところが、ヤマハの『AIR SURROUND XTREME』は、なんと2万Hzまで効果が得られる(特許取得済みの独自技術)。バーチャルサラウンドでは、空間をメッシュ状にエリア区分して、『どのエリアから出た音だと錯覚させるのか?』を設定するけれど、『AIR SURROUND XTREME』はそのメッシュがとても細かい。だから、定位感が優れているというわけなんだ」
リアル5.1chで楽しむBD『愛・おぼえていますか』
文=氷川竜介(アニメ評論家)
特別講座その2:『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』とは?
TV版『超時空要塞マクロス』は第27話「愛は流れる」で最終回的クライマックスが描かれ、さらにそこから全36話と予定を延長している。ヤマト、ガンダム、イデオンと名だたる作品群が放送期間短縮となったのとは逆パターンである。
このヒットを受けて制作されたのが、1984年7月公開の劇場版『愛・おぼえていますか』だ。
ここでも過去のSFアニメの劇場版と異なる挑戦があった。TVのフィルムによる再編集映画ではなく完全新作としたことだ。『エースをねらえ!』『銀河鉄道999』のように映画用に一部設定やストーリー構成を変えることで、シリーズを再構築・濃縮する方式を採用したのである。
TV版では若手スタッフの意欲に比べて映像の実際が伴わず、残念な回も少なくなかった。そのリベンジもあって、この劇場版では現在でも驚く高密度な作画と美術で、全編が埋め尽されている。まさに映画館で体験するにふさわしいハイクオリティコンテンツとして、観客を圧倒したのである。
ちょうど本作の前年からアニメ作品をビデオパッケージ化するビジネスも軌道に乗り、それを前提にOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)という新ジャンルも台頭する。この機運も追い風となった。ユーザーに「大枚はたいても買い、何度も楽しむべきタイトル」としての認知をうけたのである。
その点で、現在のパッケージ販売をベースにしたアニメビジネス、それと連動したアニメのクオリティ主義のルーツのひとつにも位置づけられる歴史的意義のある映画なのだ。