約10人の候補のなかから自らの意志でイェッター氏を選出
イェッター氏は、CADAM(現ダッソーシステム)ビジネスにおいて、日本の製造業のと接点があったというが、日本IBMでの勤務経験がない。また、これまで50年以上に渡って、日本人が社長を務めてきたことも、次期社長候補として、外国人であるイェッター氏が、業界内ではノーマークだった理由のひとつだ。
橋本社長は、「社長の役目として、次期社長候補は常に考えていなくてならない。現在、3年後、将来という3つのボックスに分けて、10人以上を考えていた。マーティン(=イエッター氏)は、そのなかに最初から入っていたわけではないが、古い友人であり、よく知っている人物。日本IBMとドイツIBMは、IBM社内としては競争関係にもあり、ドイツから学ぶことも多かった。一昨年には、ドイツIBMの社長として、その経験を日本IBMと共有するために、日本に招き、議論を行った経緯もある」と語る。
一方のイェッター氏は、ドイツIBMにおいて、「オープンな組織に変革した実績がある」と自ら語る。
「以前のドイツIBMは、国に根ざしたクローズドな組織だった。これを近代的なオープンな組織に変革し、お客様に対してよりよいサポートが行える体制とした。お客様第一で物事を進める体制を作り上げた」とする。
その点では、大鉈を振るった改革にも取り組んだ経験もあり、日本でも同様の変革が進む可能性は捨てきれない。
橋本社長は、「イェッター氏の指名は私がしたもの。日本人以外のトップになったことで、管理が厳しくなるということもあるかもしれないが、それを目指した体制ではない」と否定する一方、「外国人役員が増えるかどうかはわからない。だが、日本により最適な人材を、グローバルという大きな枠のなかから受け入れるということが可能になる。マーティンは、グローバルIBMのリソースを日本に持ってくるという点では、私よりも人脈がある。これは日本への投資を加速することにもつながる」と、イェッター氏の社長就任による効果を語る。
そして、「今回の件で、彼女(=米IBMのロメッティCEO)からは、とくになにかを言われたわけではないが、グローバルで日本を重視しているのは間違いない。日本IBMは全世界のなかで、売上高、利益ともに10%以上となっており、IBMというグローバルカンパニーが、日本のお客様にどう貢献できるかという意味でもポジティブな人事になると受け止めている」とする。
イェッター氏は、「今回の人事は自然な流れ。ドイツ銀行の頭取がドイツ人ではないといったこと起こっており、こうした動きは、世界では一般的にみられていること。米IBMでも国籍に関係なく、様々な人が働いている」と語る。
懸念されるのは、日本のパートナーや顧客に対するコミュニケーションであろう。
「まだ具体的な役割分担を決めているわけではないが」と橋本社長は語りながら、「私が辞めるわけではない。しかし、私がこれまで以上にお客様やパートナーを訪問することで、より緊密な関係を築くことができる」として、その懸念を否定する。
グローバル化では世界的にも先進的企業の一角を占めるIBMが、日本IBMへの外国人社長の登用によって、グローバル化をさらに加速するのは明らかだ。日本IBM自身がさらに変革し、業績を成長路線へと転換すること、顧客満足度を高め、顧客の変革を支援すること、そして、その先の成果として、グローバルリソースの活用の一環として、日本IBMから海外法人の社長への登用や、本社の重要部門への採用といった動きが出てくれば、外国人社長体制による日本IBMの変革は成功といえるのかもしれない。そうした日が数年後に訪れるのだろうか。
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