常識を覆す「どんな度数でも、追加料金0円」
急成長の同社も、順風満帆だったというわけではない。2007年8月期決算までは順当に売り上げを伸ばし黒字だったが、2008年8月期決算で赤字に転落する。続く2009年も赤字となった。2008年に赤字に転落したとき、同社は「最終赤字はアイウエア事業の成長鈍化が主な原因」と分析している。2008年、アイウエア事業部の売り上げは全社売り上げの73.7%を占めていた。
黒字化に向けて、2009年9月、準備を重ねてアイウエア事業部のブランドを「JIN's GLOBAL STANDARD(ジンズ グローバル スタンダード)」から「JINS」に名称を変更し、抜本的な改革を開始した。
「3つの改革を断行しました。ひとつは、価格の刷新。ふたつめは、新商品の開発。そして広告宣伝です」(アイウエア事業部Eコマースグループマネジャー 新井 仁氏)。
メガネの新価格体系は、4990円、5990円、7990円、9990円の4種類に設定。1万円以下で手に入る価格を目指した。ここで驚くのは、レンズ代込み・追加料金なしの“明朗会計”だという点だ。当時も今も、「レンズ込み料金」をうたうメガネ店はあるが、度数を強くしたい、レンズを薄くしたい、紫外線をカットするUV仕様にしたいと思えば、たちまち価格が跳ね上がってしまうのが実情だ。
それは、半ば業界の“常識”とされ、同社も例外ではなかった。しかし、お客さまにとっては不親切極まりないのも事実。「結局、いくらかかるの?」という思いは、不信感に直結する。同社は、ここにメスを入れたのだ。
「価格を見直すにあたっては、『安くても、品質がいい』ことは徹底してこだわりました。レンズは、世界シェアNO.1メーカーの薄型非球面プレミアムレンズなどを標準搭載しています。フレーム、レンズ込み、ケース、メガネ拭き付きで4990円からの価格を実現するため、レンズメーカーを絞り込む、大量仕入れによって全体の仕入れ値を下げるといった工夫をしました。企画から生産、流通、販売までを自社で一貫して行うSPA※の強みを生かし、無駄なコストを徹底カットし、販売本数を大幅に引き上げる生産体制を整えていきました」
※Specialty Store Retailer of Private Label Apparelの略で、企画から製造、販売までを統合し、消費者ニーズに迅速に対応できるビジネスモデルのことで、製造小売業といわれる
こうした施策を経て、社運をかけて、樹脂素材の新商品「Air frame(エア・フレーム)」を発売した。
「ポイントは、樹脂素材だから、とにかく軽くて柔らかいこと。それに加え、メタル芯を入れずに成型できるので、フレームに弾力性や復元性があり、フィット感も抜群です。これらが、多くのお客さまに支持されたのだと思います。また、医療用カテーテルなどに使われるほど高品質な樹脂素材なので、安全性もアピールできました」
エア・フレームを売り出すため、メガネ店では初となる、単一商品に絞ったテレビCMを大々的に展開したところ、わずか2週間で当初準備した7万本が完売した。それまでの単一商品の月間売り上げの最多記録が3000本だったことを考えると、いかに破格の売れ行きだったか分かるだろう。
現在は、このエア・フレームなどの「定番商品」と毎月新作を投入する「企画商品」の他、PC専用メガネをはじめ機能に特化した「機能性アイウエアシリーズ」、著名人やブランドショップなどとタッグを組んで販売する期間限定の「コラボ商品」の3つの軸で商品を展開している。
「コラボ商品同様、定番・企画商品も、実は限定性が高いのが、弊社が販売するメガネの特徴の1つです。毎月、企画商品だけで100種類ほど新作デザインを投入し、約3カ月程度で売り切ったら販売を終了します。アパレルショップが、シーズンごとに新作を出す。あれとまったく同じ感覚です。ファッションに合わせてメガネも変える。そういう人が増え、今まで以上にメガネを身近な存在にしていきたいんです。リーズナブルな価格帯は、それを後押しすると思います」
こうしたさまざまな施策が功を結び、同社は2010年8月期決算で黒字化し、2011年8月期には3億8400万円の純利益をたたき出した。