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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第90回

補聴器屋さんが作ったイヤホン「FitEar」が本気すぎる、という話

2012年03月31日 12時00分更新

文● 四本淑三

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はじめてのシリコン注入

 とっさに思いついた回避のための言い訳はすべて見事に打ち返され、結局は別室に通され、私の耳穴を試験台として供出することになった。耳の状態によっては採取ができないこともあるといい、耳型を取るに当たって同意書にサインを求められた。20歳未満は保護者の署名だが、48歳の私を誰も保護はしてくれない。

A同意書には簡単なセルフチェック項目がある。これに当てはまると耳型の採取は難しいかも知れない

※ チェック項目と同意書のダウンロードはこちらから

 この辺のシリアスさは実に医療機器的で、家電量販店で売っているイヤホンが市販の風邪薬だとすると、これは病院の処方薬という感じである。それでテンションが上がる人は上がるかもしれないが、私は注射を打たれる前の子供のようにビビっていた。将来、カスタムイヤーモニターを作ってもらうのもいいな、とは漠然と考えていた私だが、この耳型採取が大きな精神的ハードルだったのであり、まさかこうした形でそれを乗り越えざるを得ない状況になるとは予想だにしていなかった。

 耳型の採取は、歯医者で歯型を取るあの感じと同じ。流体のシリコンを注入し、硬化するまで待って、それを剥がし取る。耳穴にシリコンを注入するので、まず鼓膜に達しないように耳栓をする。

耳の中を覗く各種の器具。糸の付いたスポンジのようなものがシリコン注入前に挿入する耳栓

担当の女性に耳の穴を覗かれてしまう私。ものすごく大きな耳垢なんか見えていたりしないだろうか…

 シリコンの注入は片耳づつ。ぬめーっと耳穴に侵入してくる冷たい異物感は、例えて言うなら外宇宙からやってきた謎の生命体に身体を乗っ取られる時のような感覚で、もちろん私にそんな経験はないから実際のところは良くわからないが、要するにほかにたとえようのない気持ちの悪さであり、写真を撮っていた盛田くんも「グロい」という言葉を連発していたため、自分の変わり果てた姿のパターンをいくつか想像しながらシリコンの硬化を待つことになった。

シリコン注入。もちろん本人はこの写真で初めてその様子を見た

シリコンに乗っ取られた私の耳。サザエのフタのようである

 が、硬化までにそんなに時間はかからない。そしてスポっと抜いた形を見ると、つぼ焼きにしたサザエの中身のようで笑ってしまった。この耳型からシェルを設計し、ドライバを組み込むことになるらしい。ビビって損した。簡単であった。

シリコンを取り出す。手さばきが上手なせいか、耳穴が素直なせいか、痛くとも何ともない

完成した耳型。殻から取り出したサザエの中身のようである。つまり私はサザエさんだったのか

 耳型採取費は5250円。イヤーモニターの製作を依頼する場合は、あらかじめ用意されているドライバ構成のラインナップから選ぶことになる。カスタムイヤーモニターシリーズなら、2ウェイ/2ドライバ構成の「FitEar Private222」(7万8750円)から、3ウェイ/4ドライバ構成の「FitEar MH334」(14万7000円)まで。これが本人の耳に最適化されたシェルを伴って、概ね2週間ほどで届けられるらしい。

耳型採取から戻るとまもなく[TEST]さん登場。須山さんから着脱に関して説明を受ける

[TEST]さんのFitEar MH334。左右で色分けされていて、シェルにはネームも入っている

せっかくだから装着写真も。さすがミュージシャンが付けるとサマになる

 また、この取材を行なった2012年1月31日時点では試作機の状態だった、ユニバーサルタイプの「FitEar TO GO 334」(10万5000円)の発売も始まっている。FitEar 334と同じドライバ構成を採りつつ、一般的なカナルタイプと同じイヤーチップを使った、耳型を取らずに使えるFitEar初の機種であり、購入にあたって精神のハードルを越える必要がない。

 せっかく自分用のカスタムイヤーモニターを作ってもらえるのなら、そのユニバーサルタイプのFitEar TO GO 334と比べるいいチャンスではないのか。カスタムとユニバーサルはどこが違い、何がメリット・デメリットなのか。その詳細はまた次回。



著者紹介――四本淑三

 1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。

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