はじめてのシリコン注入
とっさに思いついた回避のための言い訳はすべて見事に打ち返され、結局は別室に通され、私の耳穴を試験台として供出することになった。耳の状態によっては採取ができないこともあるといい、耳型を取るに当たって同意書にサインを求められた。20歳未満は保護者の署名だが、48歳の私を誰も保護はしてくれない。
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この辺のシリアスさは実に医療機器的で、家電量販店で売っているイヤホンが市販の風邪薬だとすると、これは病院の処方薬という感じである。それでテンションが上がる人は上がるかもしれないが、私は注射を打たれる前の子供のようにビビっていた。将来、カスタムイヤーモニターを作ってもらうのもいいな、とは漠然と考えていた私だが、この耳型採取が大きな精神的ハードルだったのであり、まさかこうした形でそれを乗り越えざるを得ない状況になるとは予想だにしていなかった。
耳型の採取は、歯医者で歯型を取るあの感じと同じ。流体のシリコンを注入し、硬化するまで待って、それを剥がし取る。耳穴にシリコンを注入するので、まず鼓膜に達しないように耳栓をする。
シリコンの注入は片耳づつ。ぬめーっと耳穴に侵入してくる冷たい異物感は、例えて言うなら外宇宙からやってきた謎の生命体に身体を乗っ取られる時のような感覚で、もちろん私にそんな経験はないから実際のところは良くわからないが、要するにほかにたとえようのない気持ちの悪さであり、写真を撮っていた盛田くんも「グロい」という言葉を連発していたため、自分の変わり果てた姿のパターンをいくつか想像しながらシリコンの硬化を待つことになった。
が、硬化までにそんなに時間はかからない。そしてスポっと抜いた形を見ると、つぼ焼きにしたサザエの中身のようで笑ってしまった。この耳型からシェルを設計し、ドライバを組み込むことになるらしい。ビビって損した。簡単であった。
耳型採取費は5250円。イヤーモニターの製作を依頼する場合は、あらかじめ用意されているドライバ構成のラインナップから選ぶことになる。カスタムイヤーモニターシリーズなら、2ウェイ/2ドライバ構成の「FitEar Private222」(7万8750円)から、3ウェイ/4ドライバ構成の「FitEar MH334」(14万7000円)まで。これが本人の耳に最適化されたシェルを伴って、概ね2週間ほどで届けられるらしい。
また、この取材を行なった2012年1月31日時点では試作機の状態だった、ユニバーサルタイプの「FitEar TO GO 334」(10万5000円)の発売も始まっている。FitEar 334と同じドライバ構成を採りつつ、一般的なカナルタイプと同じイヤーチップを使った、耳型を取らずに使えるFitEar初の機種であり、購入にあたって精神のハードルを越える必要がない。
せっかく自分用のカスタムイヤーモニターを作ってもらえるのなら、そのユニバーサルタイプのFitEar TO GO 334と比べるいいチャンスではないのか。カスタムとユニバーサルはどこが違い、何がメリット・デメリットなのか。その詳細はまた次回。
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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