プロのアドバイスにより音質向上
―― あちこちから大変ですね。それはいつごろの話ですか?
須山 2年半前ですね。ステージで使うモニターについては、ミュージシャンからフィードバックをもらっていたんですが、ギターパートとベースパートでは求められるものも違う。それが原田さんの場合は、こうあるべきという絶対値があって。スタジオで音を聴かせていただく機会をたくさんいただきました。それで今まで漠然と聴いていた音楽がどういう風に構成されているか、私がわかるレベルに噛み砕いて教えていただきまして。そこが大きな転換点でした。望月には頭に来た反面、ちょっと足を向けて寝られない。
―― 持つべきものは友ですね。で、どこがどうダメだったんですか?
原田 言ってしまえば「音楽として聴きづらい」。特性としては良いかも知れないけど、明瞭度がない。それでバランスを取ってもらったんですよね。
―― そういう評価をどう製品に反映するんですか?
須山 音に関わるイヤーモニターのパラメーターは極めて少ないんですね。たとえばバランスドアーマチュア型のスピーカーなら、メーカー、機種、振動板やエンクロージャーのサイズであったり。それをどう組み合わせるか、パッシブネットワークのクロスオーバーポイントの設定とか、最終的に音が出るときにメッシュのような布を付けてフィルターとして使うんですが、そのあたりの設定だけなんです。
―― これは企業秘密かも知れませんが、バランスド・アーマチュアのドライバは複数のメーカーを使われているんですか?
須山 選択肢が基本的にないんですね。バランスドアーマチュア型のドライバを作られているメーカーは世界的にも数社しかなくて、一番大きなところではアメリカのノールズ(Knowles)というところと、2番手くらいでデンマークのソニオン(Sonion)というメーカー。国内ですとスター精密さんと、今度ソニーが自社で作り始めましたが。
―― まあソニーは基本的に外に出してないですからね。
原田 そういうレシピみたいなものを教えてもらって、フィルターはどういう風に使うべきかとか、抵抗はいくらくらいの値がいいとか、メーカーによって同じ大きさのドライバでも癖が違うから、どう組み合わせていこうとか。それを聴きながらアドバイスして、それでバランスがとれたんですね。
―― でも、それは相当時間がかかったんじゃないですか?
原田 まあ、かかりますよね。
須山 材料について原田さんに知っていただくと、逆に原田さんから具体的な提案がどんどん出てくるんですよ。ケーブルも我々は付属品として考えていたのが、回路の一部として考えなければいけないというのも、やっていくうちに見えて来まして。それでできたのが去年の春。「MH334」※という機種ですね。
※ モデル名の「MH」は、開発に関わった原田さんのイニシャルから取ったもの。

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