必要なのは、予定調和を自分で壊す勇気
丸山 ……そういうわけで、視聴者の方の反応やご意見は僕個人としては気にしているんですけど、その反面、作品の方向性がそれに左右されすぎないよう気をつけれなければと思います。
―― さきほどの、「予定調和な作品にならないようにする」というお話ですね。
丸山 はい。今までのアニメのセオリーからは逸脱することで、それが大きく支持していただけることもあるし、逸脱が大きすぎるともちろん異論が出てくることもある。新しいものほど今までにない見慣れないものですから、見ていても戸惑うし、受け入れられないことも当然ある。「これは自分が見たかったものじゃない!」と言われると、申し訳ない気持ちになりますね。
―― なぜお客さんの批判を受けてまで、予定調和を壊すのでしょうか。
丸山 これは僕自身の個人的な見解も入ってしまうんですけど……作品への評価を、その時にヒットしたかどうかだけで考えたくないなという思いがありまして。アニメって、放送された当時は人気が出なかったとか批判が多かったような作品が、何年も経った後に再評価されたりすることも稀にありますし。送り出した時に、仮にユーザーさんの反発を受けたり、存在感が空気的になったりしても、あれは違ったのかなと真摯に反省しつつ、今度は全く逆方向の表現に走り出したりしたいなと思ってます。
「挑戦と揺り戻し」、その繰り返しがあるから進化し続けられるんじゃないかなと。 そうしていかないと、自分が1本の作品に関わっている間に、視聴者のみなさんは10本以上のアニメを見ていたりするので、すぐ置いてかれてしまう恐怖感がありますね。
―― 批判をされても新しいことに挑戦するということが大事なんですね。
丸山 大事だと感じてます。挑戦と揺り戻しの振れ幅は大きいほうがいいんです。小さい幅の中で動いていると発見と習得が少なく、先細ってあきられるのではという強迫観念がありますね…。予定調和を大きく壊しすぎて大怪我をする怖さに怯えながらも、壊していく勇気をもてたらいいなと。
そういう部分で、日常生活で「○○○(アニメ作品)のファンです」っていう言葉を聞いたり、イベントに来て作品を一生懸命応援してくださるのを拝見できると、勇気を頂けるところが結構ありまして。あと、初対面の人とでも、アニメ好きとかあの作品が好きとかって聞くと、急に仲間意識がでてきたりしませんか? アニメーションは、関わる人も見ている人も、やっぱり作品に対する愛が本当に深いなと実感しますよね。
それはアニメを観たことがない人にとっては、何でそんなに愛情深くできるのかわからないかもしれないけど、そういう人たちにこそ、テレビとしては、実はこんなに面白いジャンルがあるんだよということもお知らせしていければいいなと思うんです。
―― 今は、アニメは世間的認知度も上がりましたね。以前は、アニメとかアニメファンと言うと、もう少し世間からは距離がある感じだったかもしれません。
丸山 そうですね。アニメは海外でもきっちり評価され、世界に冠たる日本の文化と言われたりします。また、様々な種類の番組を放送しているテレビ局の人間だから逆に良く分かるのですが、これだけ日本国内でも毎週楽しみにしてくれて、こだわってくれて、反応をくださるファンがいるジャンルは、決して他にないです。そんなユーザーの方々が発してくれる、“世の中のアニメ熱量”のおかげで、自分も社内で堂々とアニメを推せる空気になってきて助かっています。
―― アニメが数多く放送される環境のおかげで変わってきたのかもしれません。
丸山 そう言っていただけると、多少なりとも存在意義が感じられてうれしいです。アニメはテレビ局だけでは絶対に作れないので、スタッフや関係各社の人々から一緒に作品を作り、盛り上げていく上で必要な存在と思われ続けなければというのが強くあって……。でないと、アニメにはMBSが必要とされなくなってしまう、という危機感が常にあります。これは見てくれている方々についても同様で、「MBSで放送してるアニメは面白い」「MBSでアニメを放送してほしい」と思ってもらえなくなったら、すぐ必要とされなくなってしまう。
テレビアニメを放送し続けることで、アニメそのものが視聴者に浸透していくとしたら。そしてMBSのアニメもその一部分を担えていたら、本当に幸いなことだなと思っています。
■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。
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