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アップルが16年ぶりとなる株式配当と自社株買いを発表

今なぜ配当と自社株買いか? Cook氏が目指すアップルは?

2012年03月21日 10時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)

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2012年に入り、“異質な動き”が顕著なアップル株

 筆者の予想だが、この動きが顕著になったのは株価が400ドル前後を推移していた水準から、2012年に入ってわずか3ヵ月で600ドルまで急上昇したあたりだ。このアップル株価の急上昇について、面白いレポートがある。Wall Street Journa(以下、WSJ)lが2月15日に報じた記事によれば、UBSのアナリストが米国の株価指数であるS&P 500からアップルを除外し、「S&P 500 ex-Apple」という別のデータを顧客に提示し始めたというのだ。

 これは、アップル株価の上昇がニューヨーク株式市場の他銘柄と比較しても異質な動きであり、指数と連動していないという理由によるもの。これまでアップル株を「Buy」に設定してひたすら高株価を煽っていたアナリストらが、相次いでアップルの株価上昇に対して一定の距離を置くようになったのだ。PER(株価利益率)ベースでいえば17と、IT銘柄でいえば他社と比べても特別高いわけではないアップル株だが、ここ最近の動きの異常さは際立っているというのが多くの評価かもしれない。

ここ5年のアップル株価(AAPL)の動き。2012年に入ってからのカーブが急に変化したことが分かる

 ここ最近、筆者がアップル株式関連の掲示板を覗いていたところ、「なぜ高値だと考えているアップル株を持ち続けているのか?」というテーマの議論の中で「株価が下がるようであれば配当が期待できる」という意見が多かったのを記憶している。つまり、高値圏で買っても大きく損することはないという認識なのだろう。これが買いが買いを呼んで、ひたすら株価上昇につながっている原因のひとつとみられる。

 一般に、株式配当や自社株買いといった行動は株価維持または上昇効果が期待できる。そのため、業績不振で株価が下落するようなケースが続くのであれば、自社株買いを決定するといったケースが多くみられる。

 一方で、アップルの株価は明らかに高値圏にあり、株価維持のための自社株買いはあまり必要ないようにも思える。実際、アップルは2001年9月のテロ事件で株価が下落したときに自社株買いの検討を行なったが、最終的にジョブズ氏が自身の死去までこのアイデアを一蹴していたという話をWSJが報じている

 だが、最終的にジョブズ氏は、CEO職をクック氏に譲った際に「好きなようにやってくれ」とアドバイスしたとされる。配当や自社株買いを行なわなかったのがジョブズ氏の意志だったとすれば、これの再開を決定したのはクック氏の判断だったといえるだろう。

クック氏が配当再開と自社株買いに踏み切った理由

 ではなぜ、クック氏は、配当の再開と自社株買いの実施を予告したのだろうか?

 大型買収などを行なわないアップルにとって、キャッシュの使い道は比較的限定的となっている。今後もしばらく好調が続くとすれば、キャッシュは増え続けるだろう。以前、マイクロソフトが成長の節目に差し掛かった際、最終的に株主らの要求に折れて2003年から配当を開始した例がある。株主らのプレッシャーに負けたといえばそうだが、アップルは世界への市場拡大でいまだ成長カーブを描き続けており、経営陣らのウィークポイントは少なく、成長限界が理由ではないといえるだろう。

 理由のひとつとして考えられるのは、「キャッシュの明確な使い道を見出せない」ことが挙げられる。配当や自社株買いの効果が限定的である一方で、アップルのキャッシュの使い道が今後も大きく変化することが見込めないため、今後も好業績を維持することでキャッシュは増え続けることが予想される。

 キャッシュのほとんどは米国内に滞留しており(全体の3分の2ほど)、海外への再投資も行なわれていない。これは、アップルがほぼファブレス状態で稼働しており、リスク資産を抱えていないことによるもので、今後もこの方針を維持する限りキャッシュが貯まり続ける可能性がある。先ほどのWSJのレポートでも「工場、不動産、設備を持たないハイテク企業の多くが直面しているジレンマ」と評しており、アップルもまたこの状況にあるのかもしれない。


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