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アップルが16年ぶりとなる株式配当と自社株買いを発表

今なぜ配当と自社株買いか? Cook氏が目指すアップルは?

2012年03月21日 10時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)

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なぜ株価対策が必要なのか?

 問題は、17年ぶりに株式配当が再開されたバックグラウンドと、これが周囲に与える影響だ。一般に、株主が株を購入する主な理由は3つほどある。

 1つは購入した株式を後で高値で売却してその差益で収入とするもので、これは「キャピタルゲイン」と呼ばれる。2つ目は株式売却による差益はさることながら、それを保持し続けることにより配当やさまざまな特典を得ることを目的とするもので、こちらは「インカムゲイン」と呼ばれる。3つ目は議決権を得るために必要な株式を買い集め、積極的に経営に関与したり、あるいは経営権を掌握するためのもので、これは会社経営が傾いたときなどに発生するケースが多い。なかには純粋に会社支援のために投資の対価として株式を得る場合、あるいは会社のファンなので株式を購入するという例もある。

 株価が株主らの評価の結果だとすれば、経営者に求められるのは株価を維持または高値圏へともっていくことだろう。そして、一定以上の株価を維持することで、3つ目の経営権乗っ取りや外部からの干渉を最小限に抑えられる。

 株式売買による利益、キャピタルゲインを狙いやすいのは、会社が株式を公開したばかりのケース、例えばスタートアップ企業などが典型的だ。あるいは株価が低迷している企業の株を購入しておき、何かの材料で上昇を期待して保持する場合などだ。

 一般にスタートアップ企業の操業当初はキャッシュフローが不足する傾向があるため、配当などを出す余裕が少ない。そのため、多くのキャピタルゲインを出すためにも株価を上昇させるような急成長が期待されることになる。逆に経営の安定した企業では事業の急拡大はあまりないため、株価の急上昇もまた期待できない。そのため、どちらかといえば、配当や特典などインカムゲインが期待されることになる。経常黒字を維持し、なるべく多くの配当で株主に還元することが求められる。

投資家から見たアップルは?

 では、アップルはどうだろうか? 同社が面白いところは、創業30年を超える老舗であり、スタートアップ企業というには長い歴史がある。かといって安定企業かといえばそうともいえず、1990年代後半にジョブズ氏が復帰して倒産寸前だった同社を立て直し、昨今大きく騒がれるほど潤沢なキャッシュを蓄えるようになったのもここ数年の話だ。

 このアップル復活の軌跡はそのまま株価に反映されており、2007年くらいまで100ドル以下を推移してた株価はしだいに上昇を始め、iPhoneの大ヒットで潤沢なキャッシュを築くようになって以降はそのまま大きく上昇カーブを描き、今日に至っている。つまり、傾いていた会社があるヒット商品の登場を機に急成長を描くという、キャピタルゲインに向いた銘柄だといえるだろう。一方で、潤沢なキャッシュを蓄えるようになったことで、ここ最近になりインカムゲイン狙いの株主が急増しているといえる。

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