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目指すはiTunes越え? 「Gumroad」を生んだ19歳社長に聞く

2012年03月21日 12時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)

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シリコンバレー期待のスタートアップとして
Gumroadはローンチされる

 前述のように「Pinterest」を飛び出して、そこでのビジネスアイデアを基に投資家から110万ドル(約9200万円)の資金を引き出すことに成功して「Gumroad」を立ち上げたLavingia氏。その行動力だけでもエネルギッシュだ。

 彼の経歴は、シンガポール在住の時期を経て大学に通うために米国へと戻ったことに始まるという。米カリフォルニア州ロサンゼルスにある南カリフォルニア大学(University of Southern California)在学時には、iPhoneアプリ開発などを行なって現在の業務につながる経験を積んでいたという。その後、Pinterestを含む複数のスタートアップ参画のためシリコンバレー中心部であるカリフォルニア州パロアルトへと移り住む。Pinterestでの役割は主にデザイナーであったが、そのときのアイデアがGumroadへとつながっている。最初のアイデアを思いついたのは昨年2011年4月で、半年の準備期間を経て9月に同社を退社。拠点をさらに北にあるサンフランシスコへと移し、サイトの本格構築と投資家からの資金獲得、そして今年2012年のサービス正式ローンチとなる。

自宅兼オフィスでインタビューに答えるLavingia氏。弱冠19歳で行動力を発揮しGumroadを立ち上げた

 世界のITの中心的エリアであるシリコンバレーについては多くを語るまでもないが、ヒューレット・パッカードの創業の地であるパロアルトを中心に、南はサンノゼ、北はレッドウッドシティくらいまでがその中心地域であるとされている。つまり半島の北端であるサンフランシスコは、従来の定義でいえばシリコンバレーの中心からは外れにあたる。それにも関わらず、最近では多くの話題のスタートアップがサンフランシスコ周辺地域で誕生しており、例えばYouTubeはお隣のサンブルーノ(創業はサンマテオ)にあり、サンフランシスコには代表的企業としてセールスフォースドットコム(Salesforce.com)が鎮座している。Adobe Systemsに買収されたかつてのMacromediaもサンフランシスコが拠点だった。これらはごく一部に過ぎないが、最近話題の新世代スタートアップはサンフランシスコでも特にSOMA(ソーマ)やミッションといった同市南部の歓楽街を最初から拠点にする傾向が強い。ソーシャル写真サイトの「Instagram」、オンラインゲーミングの「Zynga」、そして「Twitter」はすべてサンフランシスコの新興地域を拠点としている。

サンフランシスコ市内の南側エリアにあたるSOMAは再開発の真っ盛り。リーマンショック前後で一時工事がストップしていたエリアもあるが、現在では未開発エリアの開発も進んでいる。いま話題のシリコンバレー・スタートアップが密集するエリアでもある

 かつてSOMAは荒れ放題の治安の悪い地域、ミッションはヒスパニックや中国人が多く住む飲み屋街といった印象が強かった。だがここ最近の再開発でSOMAは見違えるほどにきれいなエリアとなりつつあり、ミッション地域には若き事業家や技術者たちが住居を構えることで地価が急速に上昇し、市内の高級住宅街に負けず劣らずの高所得者向け住宅エリアとなりつつある。例えばシリコンバレー中心部のマウンテンビューに本社のあるGoogleだが、一部の従業員は車で片道45分以上はあるサンフランシスコに住み、毎日遠距離通勤をしているほどだ。Lavingia氏が拠点をあえてサンフランシスコに移したのも、こうした刺激のあるエリアでビジネスを行なうことが目的だったようだ。

「みんな賑やかな街が好きだ。だから集まってくる。またみんなが集まることで、ビジネス上の刺激にもなる。Twitterなどには自分も友人もいるし、少し歩けばすぐに会うこともできる。こうしてお互いのアイデアや意見をぶつけるんだ」

とLavingia氏は楽しそうに話す。

 同氏がオフィス兼住居にしている場所は、Twitter本社から徒歩15分もかからない。広大な土地にキャンパスが散在するシリコンバレー中心部とは異なり、サンフランシスコは狭い街だ。ITスタートアップのオフィスも互いに接近しており、Lavingia氏とTwitterの例に限らず、ものの10~20分あれば互いのオフィスを徒歩で行き来できる。これは従来のシリコンバレー企業にはあまりないスタイルだ。

オフィス(Gumroad本社)として利用しているリビングルームに設置されたガラス板はホワイトボード代わり。アイデアやメモを書き留める場所として使用しているという。Gumroadのロゴを描いてもらった

 Gumroad立ち上げ時のエピソードとして、Lavingia氏は同社への投資家からの資金提供についての話も語ってくれた。こうしたシリコンバレー企業、特に昨今のサンフランシスコ・スタートアップの特徴として、互いの従業員同士の距離が近いだけでなく、投資家との距離も近いことをメリットとして挙げている。

「最初、Gumroadの事業プランを相手(投資家)に伝えるときはもちろん緊張した。だが事前に、かつて投資家から資金提供を受けたことのある友人に話を聞いてアドバイスをもらったりと、シリコンバレーならではのメリットを活かすことができた。もともとPinterest自体が注目のスタートアップであったし、そのつてを使ってすぐに投資家に接触することができた。ビジネス自体もあくまでユーザーが主体であり、投資家向けのものではないという理念が重要だったと考えている。基本的に彼らは親切で誠実でオープンであり、必要なアドバイスや協力を惜しまない」

と述べ、畏怖する相手というよりはパートナー的な存在であることを強調している。

 またGumroadの立ち上げにあたっては、あくまで1人で事業を進めることを念頭に入れていたという。

「事業の方向性が固まる前に人を雇い入れたりということはしたくなかった。(サービスが正式ローンチした)2月に初めて2人を雇ったが、それまではサイト構築からデザイン、事業計画や資金獲得まで、すべて1人で行なった」

とLavingia氏はいう。

ライバルは「iTunes」

 将来のプランについて尋ねると同氏は「そんな先のことはわからない」といいつつも、「まずは製品の改良を続けてユーザー数を増やすこと」を目標に掲げつつ、「おそらくは10年とか20年の単位で続けていくビジネスになるだろう」とGumroadがライフワークになる可能性を示唆している。あまり将来についての綿密なロードマップはないようだが、押さえるべきトレンドとして「モバイル」が重要であると語っていた。

 「いまはファイルのやり取り等、PCを介して行なっているものが、近い将来にはモバイルを中心としたものになるだろう。例えばミュージシャンが楽曲をPC上で編集するのではなく、楽器とモバイル端末を直接接続して、曲を直接サイトにアップロードしてGumroadで販売するようになるかもしれない。こうした変化を素早くキャッチアップし、適時製品改良に役立てていきたい」(Lavingia氏)

「変化は急にやってくる。例えばiPhoneが登場する5年より前、携帯電話は非常に使いづらいものだった。そこに競争がなく、改良が進まなかったからだ。それがいまでは1つのデバイスの登場で状況が大きく変わり、みんなが同じようなデバイスを使うようになっている。われわれの時代、子供のころはPCに触れるのが当たり前だったが、今後われわれの子供の世代ではまた違うかもしれない。PCの代わりにスマートフォンやタブレットを使っているようになるかもしれない。こうした変化をきちんと認識して取り込んでいくことが重要だと考える」

とスピード感の重要性を訴える。

仕事とプライベートをきっちり切り分けて、真剣に取り組むのがいい結果を出すコツという。こちらはオフィスとは別の休憩スペースに置かれたXbox 360。ほかにインタビューを行なうにあたって近所のお気に入りのカフェに案内されたが、そちらも倉庫を改造してできたオシャレで開放的なスペースだった

 また将来的には「iTunesがライバル」(Lavingia氏)とも語っている。荒唐無稽にも思えるが、互いの得手不得手があり、この隙間を埋めてユーザーのニーズを満たすのがGumroadの存在理由であるともする。楽曲や動画など、デジタルコンテンツ販売では最大手の1つとして数えられるiTunesだが、買い手の気軽さに比べ、売り手側のハードルが高いというのは前項でも紹介したとおりだ。

「大手サイトは大規模なコンテンツ販売や流通を可能とする一方で、DRMなど業界のルールに縛られる宿命がある。コンテンツ提供者の意向があってこそ商売が可能だからだ。一方でGumroadはこうしたルールに縛られない、売り手と買い手の両方にメリットのある手軽なシステムを提供していく。コンテンツ販売では海賊版の存在がつねに話題になるが、そうした問題は決済手段の簡素化や料金(手数料)の引き下げである程度カバーできると考えている。もし目に付いたコンテンツがあっても支払い方法が煩雑なら『止めておこう』と思うはず。そうしてより簡易に手に入る海賊版へと流れてしまう可能性がある」(Lavingia氏)

 Gumroadはこうした潜在的な海賊版ユーザーを支払いへと向かせる可能性があるという。

「本来であれば売上の発生しなかった場所に、手軽な決済手段が登場して売上が出現する。海賊版やデジタルコピーについて神経質になるのもわかるが、こうした対策にリソースを割くよりも、より簡易な手段でより多くのユーザーへとリーチするほうが有効だと考えている」と同氏はその考えを述べている。

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