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新「iPad」―感性を刺激する未体験の解像感がポストPCの未来を斬り開く

2012年03月15日 10時01分更新

文● 林 信行

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究極の解像感で「上質」な表現が可能に

 iTunes Storeでは、すでにいくつかの映画タイトルが1080pで販売/レンタルされていた。試しにその1つ、映画「ツリー・オブ・ライフ」をレンタルして見てみた。哀愁漂うブラッド・ピットをカメラが後ろからとらえたシーンがあった。ブラッド・ピットの頬の金色の産毛が風に吹かれてなびいているのがはっきり見え、妙な艶かしさとリアルさが漂うこのシーンは筆者の脳裏に焼き付けられた。これは、これまでのiPad 2だったら起きなかったことだろう。

iTunesでは1080pの映画の販売、レンタルが始まっている。iPadで映画「ツリー・オブ・ライフ」をレンタルしてみたところ、その画質に驚かされた

 レーザープリンターで印刷した招待状も、活版印刷で刷られた招待状も、同じ情報を伝えることはできる。しかし、活版印刷の招待状を手に持ったときの感動は、レーザープリンターの招待状を手にしたときの感触とはぜんぜん違うものがある。

 もちろん、これはわずかな差かもしれない。しかし、「十分な品質」と「上質」との間には大きな境界線がある。

 この「差」を見極められない限り、豊かな文化は生まれない。

新iPad

iPad2

新iPad

iPad2

 これまでの「デジタル」革命は、しょせん「インスタント革命」だった。印刷屋に頼らずに家庭でも必要充分な品質の書類を印刷したり、数万円で買えるデジタルカメラで撮影した画像を補正してプロっぽく見せたり、高価な楽器の音色を再現してみせたり。

 「デジタル革命」以前の本物は、活版印刷で使われる活字にしても、フィルムに焼き付いた光の像にしても、楽器から奏でられる音の振動にしても、“段階”のない滑らかなアナログの情報だった。それを無理矢理0と1に置き換えて再現するのがデジタル技術だが、昔はこの置き換えの段階が少なく、印刷した文字や線はギザギザになり、写真は拡大すると粗が目立ち、音にも色気がなかった。

 しかし、時代とともにこの解像感が増していき、ついにたどり着いたのがフルハイビジョンであり、その次にたどり着いたのが、これ以上画素のキメを細かくしても意味がない新iPadのRetina Display品質だ。Retinaとは瞳のことで、人間の目の認識能力を超えた解像感を持っていることを示している。

 同じRetinaを冠するディスプレーがiPhone 4/4Sにも採用されているが、これらの機器は、目から20cmほど離したところで構え、視界の中心に必要な情報を表示するためのもの。一方、より大きな9.7型のディスプレーを備えた新しいiPadは、40〜50cmは慣れたところで構えて、より視野の広い部分を覆うディスプレーとなっており、同じ情報を表示したとしても体験はまったく異なる。

カメラのレンズで焦点距離50mmが、人の目の見え方に一番近いといわれる。この状態で、iPhoneをアップルがいう25cmの距離、またiPadを40cmの距離に置いて撮影してみた。iPadのほうが視界を大きく覆っていることが分かる

 iPadには現在、iPhoneと共用の58万5000本のアプリに加えて、iPadのディスプレーサイズにあわせたアプリケーションだけで、さらに20万本がある。

 今後、これらのアプリが、この新体験のディスプレーにあわせて進化したら、あるいはこのディスプレーに触発され、これまで誰も想像していなかった新感覚のアプリケーションをつくったら、iPadの活用はさらに広がるはずだ。

新iPadのゲーム画面。バンダイナムコゲームス「Sky Gamblers: Air Supremacy」

 ここで一番面白いのが、ここでアップルが他社のように画面サイズの違うiPadを出していたら、それによってこれまでのiPadの流れが否定され、アプリケーション開発者も、この先、どうすればいいのか迷ってしまったはずだ。しかし、同じサイズでありながら解像感を増すというアプローチを取ったことで、アプリケーション開発者には、機能的、スペック的進化よりも、ソフトの精度や見栄えなど、より感覚的側面での質向上が求められるようになったことかも知れない。

 ピクサー・アニメーションスタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサー、ジョン・ラセター氏の言葉に「アートはテクノロジーに挑戦し、テクノロジーはアートにインスピレーションを与える」という言葉があるが、新たなiPadが世界中の開発者にどんなインスピレーションを与えるか期待に胸が膨らむばかりだ。

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