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『ビッグデータ革命』の著者に聞く 第2回

位置情報をユーザーから収集し、活用する、全力案内!

人は自分の持つデータの価値を意外と知らない

2012年03月11日 09時00分更新

文● 増田有孝/野村総合研究所 ユビークリンク事業部長
聞き手●桶谷仁志

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参加者のボランティア精神が、被災地の交通情報収集に貢献

 全力案内!のシステムを使えば、被災地のお役にも立てるのではと考えて、大急ぎで開発し、無料で提供したのが通れた道路マップというホームページでした。

 このホームページにアクセスしていただければ、被災地で、通行が可能な道路の状況を確認できるようにしました。余震が頻繁に起こっているために、いったん通れた道も、すぐに通れなくなるかもしれない。できるだけリアルタイム性のある情報を提供しなければと判断して、4時間おきに、ホームページを更新するようにしました。

 東北地方では、タクシー会社と提携している場所は仙台だけでした。その提携しているタクシー会社に確認をすると、通信ができなくなっていることがわかりました。タクシーからのデータがもらえないので、走行データは、全力案内!の会員に頼るしかありません。だったら、既存の会員ばかりではなく、ボランティアで協力していただける非会員から「通れた道路」のデータを提供してもらえば、より役に立つ情報が出せるはずだ。そう考えて、非会員向けの無料アプリを、作成し提供しました。

 このアプリをアプリ販売マーケットにアップしたら、たくさんの方が、素晴らしいボランティア精神を発揮してくれました。既存の会員数以上のボランティア会員が集まり、ものすごい量の走行データが集まって来たのです。通れた道路のサービスは、最初はゆっくりと立ち上がりましたが、ボランティア会員の力でみるみる良いデータが集まり、表示できる範囲もどんどん広がっていきました。

 おかげで、精度の高い道路情報が出せたため、救援物資を運ぶトラックなどが盛んに使ってくれていたと聞いています。通れた道路マップの存在は、ソーシャルメディアにも流れて、各方面への認知度を上げてくれました。災害時のソーシャルメディアの力を、まざまざと感じましたね。

人を動かすために、夢と心意気を語った

 ビッグデータを扱う場合は、実はその裏で、かなり地道な努力が必要だと思います。たくさんのデータの中から、ゴミ情報を除外するクレンジング作業は、地道なコツコツ努力の代表的な例です。

 このクレンジング作業は、本書『ビッグデータ革命』の第2章でも詳しく紹介しましたが、徒歩で使われたり、自転車に乗っているだろうと思われるデータを解析し、自動的に除外していく作業です。地道な技術開発が、利用者には見えないところで、生きているわけです。

 地道な努力といえば、タクシー会社に、位置情報データを提供してもらうための交渉には、本当に苦労しました。

 どこのタクシー会社に行っても、「何に使うんだ?」と疑われる。「こういう使い方はしないで欲しい」という条件を付けられることもたびたびでした。そこで私たちは、サービスの説明は簡略にして、心意気を語るという方針に転換しました。

 「日本から渋滞を無くしたい!」「将来は世界の渋滞も無くします!」。そんな形で夢を語り、「よくわからないけど、じゃあ、一緒に頑張ろうか」という答えをいただくまで地道に面会していきました。こうしたコツコツ型の泥臭い努力が、結果的には、全力案内!サービスの優位性につながったと考えています。

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