「帰ってきたウルトラマン」としてのiPad
そして今回の本題となるiPadだ。
Cook氏によれば、2011年第4四半期のiPadの販売台数は1540万台で、これは他のPCメーカーが同時期に“出荷”した、どんなPCよりも多い台数。すでにユーザーがiPadを使う光景はそこら中で見ることができ、メール、Webブラウジング、電子書籍、ゲームまで、ありとあらゆる用途での活用が進みつつある。iPad用アプリは20万本以上も存在し、iOSのエコシステムの中でも重要な位置を占めつつある。
一方、2011年には他社からもタブレットのカテゴリに位置する製品が100種類以上リリースされたが、「iPadほど最適化されたアプリに恵まれた例は見当たらない」という。Cook氏はAndroidのHoneycombデバイスを挙げ、TwitterやYelpのAndroid公式アプリは大画面向けに最適化されていないのに対し、iPadではiPhone版とは異なるビューを持つ別個のようなアプリとして機能することを紹介している。これは販売台数等にも影響を与えているとみられ、結局のところ「これだけ数があってもiPadを負かすデバイスは登場しなかった」というのが同氏の主張だ。
「(タブレットという)新しいカテゴリーを創造したのがiPadだとすれば、この概念を書き換えるのもまたiPadだ」
そう述べ、Cook氏がスライドで示したのが「The new iPad」の名称を冠した新型iPadだ。「iPad 3」や「iPad HD」という型番ではない。日本人にとっては非常に奇異にも感じる名称だが、あくまで「iPad」は「iPad」なのだろう。
余談だが、過去に特撮で有名な「ウルトラマン」が、シリーズ3作目(Qを除く)で原点回帰を狙って「帰ってきたウルトラマン」という名称を冠したことがある。この3作目のウルトラマンに特別な名称はなく、あくまで「ウルトラマン」というのが公式での設定だ。区別しにくいので一般には「新マン」などと呼ばれ、後には公式設定として「ウルトラマン・ジャック」という名称がついた。iPadとウルトラマンを重ねるというのも強引な話だが、ここでは第3世代iPadの名称を仮に「新型iPad」としておきたい。もっとも、後に別の名称がつく可能性もあるのだが、「iPadを再定義」というCook氏の説明に今回の世代では何か特別な意気込みのようなものを感じている。
この新型iPadを詳しく説明したのは、ワールドワイドマーケティング担当SVPのPhil Schiller氏。新製品の特徴を5つ挙げ、その革新性をアピールした。
1つ目は「Retina Display」の採用だ。iPhoneが「4」に進化したときと同様に、縦横の解像度がそれぞれ2倍、合計で4倍の解像度のディスプレイとなった。従来のiPadのディスプレイは1024×768のXGAで、今回の新型iPadはその倍にあたる2048×1536のQXGAとなっている。フルHDのテレビで採用されている1920×1080ドットという解像度と比較すれば、その細かさがわかるだろう。またフルHDの大画面テレビはだいたい30インチ以上のサイズなのに対し、新型iPadでは9.7インチのサイズと小さい。「Retina(網膜)」という視認の限界に近いサイズを実現したということだ。
ただし、iPhone 4/4Sが326ppiなのに対し、新型iPadでは264ppiと、同じRetinaを主張するには単位あたりのピクセル数が足りない。これについてSchiller氏は「デバイスの視認距離である程度カバーされる」と言い、用途の違いから十分な解像度を実現しているとした。Retinaの効用は写真や文字コンテンツで体感できる。特に細かい文字表現を要求される日本語や中国語では大きな効力を発揮するだろう。このあたりは実際に体験してみるのが一番だ。
一方、Retinaを採用したことでGPUに求められる性能は従来の4倍まで一気に跳ね上がったことになる。そこで新型iPadでは「A5X」というGPU性能を強化した新型プロセッサ(SoC)を採用し、この高精細ディスプレイに対応した。Schiller氏によれば、このA5Xは「クアッドコア・グラフィックス」と呼ばれ、現行のARM SoCでは初のクアッドコア・プロセッサーとしてハイエンドに位置するNVIDIAのTegra 3と比較しても4倍、従来のA5プロセッサと比較して2倍の性能を実現しているという。具体的な評価基準も不明で単純比較も難しいが、少なくともA5Xにおける特徴がGPU性能の引き上げにある点は間違いない。