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博士曰く、「俺の嫁」は4次元の存在だった!?

「マスエフェクト 3」が3月15日に発売だから博士に宇宙を聞いてみた!

2012年03月09日 19時00分更新

文● 林 佑樹(@necamax

KEKの正式名称は大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構。英名ではなく、日本語名の略称からKEKと呼称される。通な言い方をすると、高エネ研。写真はBelle測定器で電子と陽電子の衝突する様子をつぶさに捉える高性能デジカメみたいなもの。現在、アップグレード作業中だ

宇宙ってなんだ? 加速器ってなんだ?

―― まず、KEKの実験で宇宙のどんなことがわかるんでしょうか?

藤本 「宇宙のすべてがどんなモノでできていて、いかなる性質を持っているのかがわかります。現在、宇宙は、物質を構成する電子などの12種類の基本粒子“素粒子”と、それらの間に働く3つの力、“電磁気力”“弱い力”“強い力”を伝える素粒子でできていることがわかっています。

 “弱い力”は原子が別の原子に変化するときに働きます。もともとの原子は、それが最小単位の構成物で、性質は不変であるとされていましたが、実際には、原子も変化します。いわば、錬金術の力といえるでしょう。

 一方、“強い力”は、原子の中央に固まって存在している原子核の構成物の1つである陽子が壊れないよう、1つにきつくまとめてくれている力です。陽子の中には粒子がいっぱい詰まっていますが、陽子がバラバラにならないのは、この力のおかげです。そのため、私たちの体も壊れることなく安心して生きていられるのです」

今回、お話を伺ったのはKEKの藤本順平先生。名古屋大学で博士号をとり、KEKの前身である、高エネルギー物理学研究所に助手として入所。当時の主力計画であったTRISTAN加速器を使ったTOPAZ実験グループで研究を行なった。現在は高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所・研究機関講師として、素粒子反応確率計算システム「GRACE」の開発に従事。LHC実験、ILC実験、SuperKEKB計画における各種素粒子反応の精密計算をしている

―― 実験場所は地下11メートルにある周長3キロに及ぶ地下トンネンル内の加速器ですよね。何度か行きましたがゲーム空間みたいなところで気に入っています(註:KEK全体についてはこちらの記事もご参照ください)。

加速器の大半は電磁石で構成される。その中にあるチェンバー内を電子と陽電子が走り、Belle測定器で衝突するわけだ。4月の科学技術週間では、恒例となる施設公開があるので興味があるのならば見学に行くといいだろう

藤本 「加速器とは、宇宙の誕生直後の“素粒子の時代”に存在していた素粒子たちを現代に作り出す装置のことです。電気をもつ粒子に電場をかけ、加速させます。加速する粒子には、電子や陽子などがありまして、つくばのKEKでは電子と陽電子を加速して実験しています。電子はとても軽い素粒子なので、すぐに、光速度に近いスピードになりますが、光のスピードを超えることはできません。陽電子は通常は我々の生活している状態では見かけることがありませんが、電子を使って陽電子を作ることができるのです」

―― 生み出した陽電子を利用して、電子と対衝突させるわけですね。陽電子と電子が衝突すると、やっぱり弾けるんですか? バーンと。SFでよくあるビーム同士の衝突のように。

藤本 「映画やゲームのようにビームが目で見えるわけではありませんが、イメージとしてはそんな感じでいいと思います。衝突点で電子と陽電子を衝突させると、一瞬高エネルギーの状態になります。そうなると、電子と陽電子だったという履歴は消去され、確率的にいろいろな種類の素粒子が生まれます。衝突させたときの電子と陽電子のエネルギーが高ければ高いほど、様々な素粒子を生み出せるんです」

電子と陽電子の衝突を捉えた様子。中央から伸びている点の連なりが、衝突で生じた粒子を示している(提供:KEK)

―― SF映画や「マスエフェクト」シリーズによく登場する、ビームを放つ兵器のイメージでいいんでしょうか? 電子と陽電子ビームは。

藤本 「イメージとしてはそれでOKです。仕組みとしては超小型加速器ですから。ただ、可視できるレベルのビームを作り出す装置が、あそこまで小型化するのは遠い未来だと思います。某汎用人型決戦兵器に登場したライフルの大きさでもまだまだ厳しいです。超大型宇宙艦の装備でなら可能かもしれませんが、それにしてもまだ先のお話ですね」

世の中は謎だらけ……宇宙ヤバイ

―― 今後、宇宙や地球に関する事項はどんなことが判明するのでしょうか? 未ださっぱりという印象なのですが。

藤本 「謎がいっぱいです。重さ(質量)の正体はわかっていませんし、今の宇宙に“反物質”がないのはなぜなのか、暗黒物質の正体が何なのか……重力もそうですし、5次元は存在するのかといったこともわかっていません」

―― いろいろ不明なんですね。まず反物質からお願いします。ゲームだとよく反物質爆弾とか出てきますけど、作れるものなんでしょうか?

藤本 「いまの科学では作れません。反物質を作れる数も少ないですし、保存もできません。電子と陽電子が衝突すると、高いエネルギー状態になってしまいます。したがって、日常生活で陽電子が存在すると、私たちの身体を作っている電子がどんどん消滅してしまいますが、陽電子は普段は存在しないので心配は要りません。

 しかし、ここで疑問が残るのです。電子と陽電子はエネルギーから対になって生まれます。出会って消滅するときにも、対になって消滅します。しかし、陽電子は普段存在しません。では、なぜ電子だけが残っているのか? それには理由があるはずなのですが……KEKはその理由の一部を解明しました。2008年にノーベル物理学賞を受賞された小林博士と益川博士の理論は、その一部です。次第に判明するでしょう」

ほんの少し前まで、宇宙は見上げるだけの存在だったが、科学が進むにつれ、人は宇宙へ行き、電波や光学などの力で遠くを星々を知るに至った。NASAやJAXAの発表で「すげー!」と思った人も多いハズ

―― 厨二病的な名前で知られている暗黒物質、ダークマターの正体は見えてきたと報道で見たのですが、実際のところは?

藤本 「天文学のほうから、加速器科学で発見した素粒子では説明できない物質が宇宙には存在するとの結果が出てきました。銀河の運動を観測すると、大量の見えない物質が宇宙にはあり、しかもそれは、見えている物質の量の6倍にも及ぶというのです。これを“暗黒物質”と呼びます。

 加速器を使った科学から考えられることは、加速器のエネルギーがまだ暗黒物質を生み出すエネルギーに到達していないのだろうと。

 そこで現在地球上にある加速器で最も高いエネルギーに到達できる“CERN(スイス・ジュネーブ)”のLHCを使って発見に挑んでいます。ASCII.jp読者さんであれば“SERN”の綴りのほうが馴染み深いでしょう」

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